ミスが続いてイライラしてしまい、やがて自滅。ズルズル叩いてしまうのはなぜなのか? ゴルフの様々な悩みに対して「脳科学」の観点で脳科学者・中野信子氏とティーチングプロの内藤雄士の対談が実現。本来のパフォーマンスがどうすれば発揮できるのか。脳のメカニズムに迫った。週刊ゴルフダイジェスト8月18・25日合併号の内容の一部を「みんなのゴルフダイジェスト」でもお届けする。

脳も筋肉と同じ「体の一部」! 感情の乱れは根性論ではなく適切なケアで解決できる

画像1: なぜ連続ミスで自滅するのか? 脳科学者・中野信子×ティーチングプロ・内藤雄士が明かす脳の攻略法

【写真左:内藤雄士】
丸山茂樹の米ツアー3勝をはじめ、これまで数多くの選手の優勝をサポート。現在は清水大成や大西魁斗など、若手男子のプロを指導している。

【写真右:中野信子】
脳科学などをテーマに研究や執筆活動を行い、科学の観点から人間社会で起こり得る現象などを読み解く語り口に定評があり、テレビなどの多数のメディアに出演。

内藤:中野先生に今日、お聞きしたいことは大きく3つあって、まず聞きたいのは、気持ちが「キレた」ときにどうするかということなんですね。プロでも、ラウンドの途中で急にうまくいかなくなって怒っちゃうとか、何とか立て直そうとするけど立て直せなくてずるずる最後まで行ってしまうということがよくあるんですね。アマチュアだと、ひとつのミスがきっかけで、そこからミスが連続するということも多いです。そういうときに、どうするのが正解なんでしょうか。

中野:多くの人が忘れているんじゃないかなと思うのが、脳も「体の一部」だということなんです。感情とか気分というのは脳から出ているわけですが、そうじゃなくて「意識」というものが体とは別に存在していて、自由に操れると思っているんじゃないでしょうか。

内藤:筋肉が疲れたらマッサージするみたいに、脳も体の一部としてケアが必要だと。

中野:そうです、そうです。筋肉と同じように、脳も適切なパフォーマンス調整が必要なんですね。体の一部としていい状態に持っていくにはどうしたらいいかを、いつも考えなくちゃいけないんです。感情に振り回されずに結果を出せる人というのは、要するに脳の使い方の上手なんですよね。
 
たとえば、朝起き抜けに「やる気が出ない」という人が多いと思いますが、それって考えてみれば当たり前で、起床直後というのは血糖値も低いですし、心拍もゆっくりになっているので脳が働きづらい。「気持ち」とか「性格」の問題じゃないんですね。体の機能として脳に酸素が行きにくい状態になっているので、首周りの筋肉をもんでやるとか、耳をもんだりするのがいいです。そうやって30分くらい経つと、起きたときよりもやる気が高まっているのがわかるはずです。

内藤:あるいは栄養補給とか。

中野:その場合は、糖類の入ったドリンクを飲むのもいいですね。筋肉が疲れたら、溜まった乳酸を流す努力をすると思うんですが、それと同じように脳に何が足りていないか、見つける努力を続けることが大事です。

肉体改造は注意が必要!
「新車と同じで取り回しの感覚がつかめません」(中野)

画像2: なぜ連続ミスで自滅するのか? 脳科学者・中野信子×ティーチングプロ・内藤雄士が明かす脳の攻略法

ゴルフに限らずプロスポーツの世界では、オフの間に高強度のトレーニングを積んで「肉体改造」を行ったものの、いざシーズンインしてみると、それが成績向上につながらないどころか、むしろ調子を落としてしまうことがよくある。これは改造後の肉体(強度、スピード)を脳が認知し切れていない可能性が高い。肉体改造をする場合、それを動かすことに慣れる時間も加味する必要がある。

意気込んだときほどうまくいかないのはなぜ?

内藤:ゴルフはものすごく練習して、試合で失敗すると、「自分には向いていないんじゃないか」と、ネガティブ思考になってしまうことがよくあるんですね。とくにプロの世界というのは、その世代の天才たちが集まった集団ですので、壁にぶち当たってしまうことが多いような気がします。

中野:それって、私が東大(東京大学)に入学したときに感じたことと似ているような気がします。東大には全国から学力の高い人だけが1学年3000人くらい集まるわけですから、その中にいたら「自分って普通かも」と思ったんですね。つまり、このままこの人たちと普通に競争していても「名前を残せないだろう」と思ったわけです。

内藤:そのときに、中野先生はどうしたんですか。

中野:壁に当たったときというのは、どうやってゲームチェンジするかが大事なんです。「挫折」、とくに中長期の挫折というのは、ゲームチェンジを実行するチャンスでもあります。つまり、この分野、この領域では自分はサチュレートしている(能力がすでに最高値に達している)んだとしたら、別の分野を伸ばすいい機会だということですね。もしその分野があまり得意じゃなかったとしても、「(自分に)向いてなくてもやるんだ」という気持ちで取り組むことが大事ですね。

マキロイはグランドスラム達成まで11度マスターズが立ちはだかった

画像: 意気込んだときほどうまくいかないのは、「脳は『ハイリスク・ハイリターン』な勝負を求めがちなんです」と語る中野氏

意気込んだときほどうまくいかないのは、「脳は『ハイリスク・ハイリターン』な勝負を求めがちなんです」と語る中野氏

ローリー・マキロイは、メジャー初優勝(2011年)からたった3年でマスターズ以外のメジャーを制覇したが、そこからキャリアグランドスラム達成(2025年)まで、実に11年の歳月を要した。「狙って」ハイパフォーマンスを出す難しさを示す好例だ。

短期の挫折(連続OBなど)に直面したときの正しい脳の使い方

内藤:中長期の挫折は、逆にチャンスというお話でしたけど、ラウンド中の突然の連続OBみたいな、短期の挫折はどうでしょうか。個人的に、そういうときの最悪な対処が、元々の戦略にないスーパーショットをやろうとしてしまうことだと思っているんですが。

中野:それはギャンブルの発想と一緒ですね。脳は勝ち目のないハイリスクを取りがちなんです。そのほうが「面白い」ですから。ギャンブルというのはそもそも胴元が勝つようにできているわけですから、短期の挫折(負け)で焦れば焦るほど負けるんです。じゃあどういう人が勝つかというと、「つまらないゲーム」を積み上げられる人なんですね。

内藤:冷静に、客観的に自分を含めた状況を見る力が必要ですね。

中野:おっしゃる通り、ゲーム中に何かうまくいかないことがあって、それを引きずってしまうというのは、状況を客観視できるユニットがないということです。たとえば、自分の肩の上に小さなワイプモニターみたいなものがあって、それが「今、あなたはこうです」と、客観的な状況を伝えてくれるイメージですね。評価は必要ないので、あくまでも事実だけ。その情報を受け取って、その状況下でやるべきことを淡々とやるというのが理想です。

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「自分の状況を客観視し、感情を挟まずに淡々とプレーする」――中野先生が語るこの理想的なメンタルコントロール、実際にプレッシャーのかかるラウンド中で実行するにはどうすれば良いのか?続きの内容では、この「自分を客観視する脳内ユニット」を誰でも簡単に起動できる実践的テクニックが明かされる! 突然の連続OBや池ポチャで頭が真っ白になった瞬間、脳内でどのような言葉を呟けば感情を即座にリセットできるのか。さらに、プロも活用している「プレッシャー下で正しい決断を下すためのメンタルルーティン」や、日常で脳の耐性を高めるトレーニング法まで徹底深掘り。「1つのミスからずるずると崩れてしまう」「カッとなって自滅した経験がある」というゴルファーの悩みを根底から覆す、脳科学的アプローチの全貌は週刊ゴルフダイジェスト8月18・25日号、Myゴルフダイジェストにて掲載中!

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Text/Daisei Sugawara
PHOTO/Getty Images
※週刊ゴルフダイジェスト8月18・25日号「脳とゴルフ」より


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