12メートルの奇跡! 予選落ちの危機から引き寄せた大歓声
ドラマは最終ラウンドの18番ホールで起きた。首位を走る桑木を追いかけていたヘンセレイトは、起死回生のバーディが必要な極限の状況で、40フィート(約12メートル)もの長距離で複雑なフックラインを残していた。

エスター・ヘンセレイトは正規の18番でバーディパットを沈め、拳を天に突き上げた
初日を「73」と出遅れたヘンセレイトにとって、大会2日目(金曜日)の最大の目標は「まずは週末(決勝ラウンド)に残ること」だった。3日目を終えた時点でも「まさか自分が最終組で回るとは思っていなかった」と無欲を強調していた彼女。予選落ちの危機すらあった位置から這い上がり、ついにメジャーの頂点を狙う位置までやってきたのだ。
入らなければメジャー制覇の夢が絶たれるプレッシャーの中、彼女のパターから放たれたボールは、まるで意思を持っているかのようにカップへと向かっていった。
「とても複雑なパットでした。でも、最後の3フィートでラインに乗っているのが見えて、『おや、これは本当に入るかも!』と思ったんです」
ボールがカップの底に吸い込まれた瞬間、ロイヤルリザムを囲む大観衆から地鳴りのような大歓声が沸き起こった。
「みんなが熱狂するあの歓声を聴けた瞬間は、間違いなくこれから先もずっと、私の記憶に残り続けるでしょう」
【動画】エスター・ヘンセレイト、「12メートルの奇跡」でプレーオフへ【AIG女子OP公式X】
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x.comこの“12メートルの奇跡”により、勝負の行方はプレーオフへと持ち込まれた。
不運なバウンスと、言い訳をしない「敗者の美学」
日没が迫る中で行われたプレーオフ。1ホール目を互いにパーで分け合い、迎えた2ホール目。ヘンセレイトの放ったティーショットは、ターゲットよりもかなり右へ飛び、ロープ外のギャラリーエリアへ。ギャラリーや打球事故防止のマーシャルたちによって踏み固められた地面による不運なバウンドも重なり、ボールは厳しいライへと転がり落ちてしまった。
「ギャラリーやマーシャルに当たったのかどうかも分かりません。ただ、間違いなく不運なバウンドでした」
【動画・約12分半】E・ヘンセレイトのプレーオフ2ホール目のティーショットは09:37~【R&A公式YouTube】
Shiho Kuwaki WINS the AIG Women's Open | FINAL ROUND Highlights | Royal Lytham & St Annes
www.youtube.com結果としてこのティーショットが響き、パーをセーブできなかったヘンセレイトは、激闘の末に桑木に敗れた。しかし、ホールアウト後の彼女の口から、不運を嘆く言い訳や恨み言が出されることは一切なかった。
「あれがリンクスゴルフというものです。アンラッキーもありましたし、今日はただ、私が勝つ運命ではなかっただけ。でも、最後まで自分自身をしっかりコントロールして、自らに優勝のチャンスを与えられたことを、本当に誇りに思っています」
全力を尽くしたからこそ持てる、敗者の誇り。彼女の笑顔には、メジャーの重圧を戦い抜いた者だけが纏う清々しさがあった。
5年間をともに歩んだキャディとの強い絆
この過酷な戦いの中で、彼女の隣には常に欠かせない存在がいた。5年間にわたり彼女のコーチ兼キャディを務め、プライベートでもパートナー(婚約者)として寄り添い続けるリース・フィリップスだ。

コーチでキャディで婚約者でもあるリース・フィリップスとエスター・ヘンセレイト
18番で奇跡のロングパットを沈めた直後、ヘンセレイト以上に大興奮し、全身で喜びを爆発させていたのがリースだった。
「パットを入れた後、彼のセレブレーションの後半部分が目に入りました。本当に最高だったわ(笑)」と、彼女は愛おしそうに振り返る。
「彼がいなければ、今の私は絶対にここにいません。私たちは5年間、一緒に信じられないほどの成長を遂げてきました。24時間ずっと一緒にいても、お互いの存在を心から楽しめる。私たちは本当に最高のチームなんです」
大歓声の渦の中でも、敗北の悔しさを噛み締める瞬間でも、二人は常にチームとしてすべてを共有してきた。その強い絆が、彼女をメジャーの優勝争いという極限の舞台へと導いたのだ。
キャリア最高位の「2位」——次なる大舞台へ向けた確かな前進
惜しくも悲願のメジャー初タイトルには届かなかった。しかし、前週の「ISPS HANDA スコットランド女子オープン」での4位、そして今大会の単独2位という結果は、彼女の実力が間違いなく世界トップクラスであることを証明している。
特に今回の単独2位は、彼女のメジャー選手権における「キャリア最高成績」となった(これまでの最高位は2024年シェブロン選手権の単独7位、および同年のエビアン選手権での7位タイ)。本人が語る「この5年間で信じられないほどの成長を遂げてきた」という言葉は、この記録更新によって見事に裏付けられたと言える。
「もちろん少しの悔しさはあります。でも、素晴らしい経験ができました。これから自分のチームとゆっくり今週を振り返り、この経験から学んで次につなげたいと思います」
不運を受け入れ、勝者を称え、愛するパートナーとともに颯爽とコースを去っていったエスター・ヘンセレイト。彼女とリースの最高のチームが、いつかメジャーの頂点で最高の笑顔を見せてくれる日が来るのを、ファンは待ち望んでいる。
写真/R&A提供

