「攻め」のスイッチを入れたティティクルとワナセン

最終日、5連続バーディを含む、1イーグル・8バーディ・2ボギーの「64」でラウンドして優勝したジーノ・ティティクル(写真/LPGA,Getty)
「頭にあったのは、バーディを獲らなければならないということだけ」
激闘を制したティティクルは、最終日の心境をそう振り返った。彼女にとって、このコースは「トロフィーを掲げるには、できるだけ多くのバーディが必要なコース」であった。最終日、2打差の3位スタートの彼女は、ひたすらに前(バーディ)だけを見据えており、それが彼女のモメンタムの源泉だった。前半9番でボギーを叩いた直後の10番で、起死回生のイーグルを奪い返したのも、この「獲らなければならない」という強い意志の賜物だろう。
徹底して「今、この瞬間の1打」に没頭するため、ティティクルは15番ホールまでリーダーボードを一切見ないという鉄のルーティンを貫いていた。激しい優勝争いの最中、自分が首位タイに並んでいることすら15番グリーンでキャディに言われるまで全く知らなかったという。「優勝争いをしている時、結果や『もしこうなったら』という未来のことばかり考えるとルーティンが崩れる。だから同組のユボルたちのプレーだけに集中していた」と明かす彼女の徹底した姿勢が、極限での攻撃力を生み出した。

最終日、首位と4打差の5位タイでスタートしたチャネッティ・ワナセン。9バーディ・ノーボギーの完璧なゴルフをして2位タイに浮上した(写真は25年ホンダLPGAタイランド)
一方、最終日に今大会のベストスコアとなる「63」というスコアを叩き出し、猛追を見せたワナセンのアプローチは、より戦術的かつ客観的だった。
首位と4打差からスタートしたワナセンは、最初の4ホールを3つのパーと3番でのバーディとし、手堅く「1アンダー」で滑り出す。しかし、4番のグリーンを終えてリーダーボードを見上げたとき、彼女の心境は一変した。
「最初の4ホールは攻めのプレーではありませんでした。でも、リーダーボードを見て(自分は伸ばしたはずなのに、首位とはまだ)4打差くらいあることに気づいてから、アグレッシブに攻め始めました」
自分が1つ伸ばしても、遠い先を走る首位の背中。「このまま安全に回っていては追いつけない」と悟った瞬間に、自らの意志で明確にギアを切り替えた。
スイッチの入った彼女は、直後の5番から一気にアグレッシブな猛攻を開始。残りの14ホールを8バーディ・ノーボギーという嵐のようなロケットチャージで駆け抜け、首位を猛追した。状況に応じた極めて冷静な戦術眼と、一瞬で牙を剥いて爆発する決断力。これこそが、彼女に「63」という異次元のスコアをもたらしたのである。
また2023年大会の覇者であり、72ホールの大会最少ストローク記録(262ストローク・26アンダー)を保持するワナセンは、この猛チャージの最中、「自分が優勝した2023年の時のモメンタム(流れ)と全く同じ感覚が蘇っていた。入ると思えば入り、外れる気がしない、あの感覚だった」と語る。自身の状態と状況を冷静に見極め、かつての成功体験をフラッシュバックさせながらギアを切り替える戦術眼こそが、彼女に爆発的なスコアラッシュをもたらしたのだ。
無欲が生んだ爆発力・ユボルのアプローチ

最終日首位タイでスタートしたアルピチャヤ・ユボルは6バーディ・1ボギーの「67」でラウンド。1打差の2位タイでフィニッシュ(写真/LPGA,Getty)
上記の2人が、プレッシャーや状況判断から自らを「攻撃モード」へと奮い立たせたのに対し、1打差の2位タイに入ったユボルのメンタルアプローチは、全くの対極にあるものだった。
「家を買ったばかりで、先週は家の世話で忙しくてあまり練習できなかった。だから月曜日にここに着いた時、『ただゴルフを楽しもう』とポジティブに考えていた」
優勝争いの重圧がかかる最終日最終組にあって、彼女は「練習不足だから仕方がない」という割り切りを、究極のプラス思考へと変換していた。さらに、最終日を同組で回ったティティクルとはジュニア時代からの大親友。ユボルは世界2位のティティクルのことを「私にとって妹のような存在」と呼び、世界の頂点を争う最終組で一緒に回れることを誰よりも楽しみにしていた。
互いにバーディを獲り合う素晴らしい雰囲気の中で「ただただ彼女と回るのが楽しくて仕方なかった」という幸福感と無欲さ。この気負いのなさこそが、硬くなりがちなスウィングに柔らかさをもたらし、結果的に通算21アンダーという驚異的なスコアを生み出す原動力となったのである。
プレッシャーを支配する多様な解

左からワナセン、ティティクル、ユボル。タイ出身の3選手がトップ3を占めた
「強い意志で攻め抜く」ティティクル、「状況を見てギアを上げる」ワナセン、そして「無欲に楽しむ」ユボル。
バーディ必須という極限のプレッシャー下において、波(モメンタム)を掴み、限界を突破するための正解は決して1つではない。3者3様の全く異なるメンタルアプローチが交錯し、それぞれが最高の結果を生み出したからこそ、20アンダー超えの素晴らしいハイレベル・バトルとなったのである。
写真/姉崎正
