なぜショートウッドは消え、ユーティリティが主流になったのか?
GD 私がゴルフを始めたのは1980年です。倉本昌弘、湯原信光、羽川豊の「三羽ガラス」が登場して、ゴルフ界が大きな盛り上がりを見せた頃になります。当時はゴルフ雑誌を開いては、「プロがどんなクラブを使っているのか」と、穴が開くほど眺めていたものです。
当時のゴルフクラブは、ウッド3本(1W・3W・4W)にアイアン9本(3I〜PW・SW)を合わせた計12本の「フルセット売り」が当たり前でした。
長谷部 「ウッド箱」「アイアン箱」があり、しっかりした化粧箱に入っていて、今のような展示スタイルではなく、箱に入ったまま売られていました。しかも試打クラブなんてありませんでしたからね(笑)。
アイアンは3番からSWまでのセットが当然で、それを買ってとにかく練習する。使いこなせない難しい番手も、練習を重ねて打てるようになることが当時のゴルファーの目標でした。
GD その頃、フルセットを買うと「これは一生ものだ」というくらいの感覚がありました。まだギアに対して「進化」という概念があまりなかった気がします。
長谷部 例えばマッスルバックのバック面に細かい傷がついて、それが味や風合いになっていく。そんな道具の変化すら楽しめた時代でした。今では「練習してクラブに自分を合わせる」というモチモチベーションから、「自分に合うクラブを診断して選ぶ」という考え方に大きく変わりました。
効率を考えれば、打てないクラブを無理に練習するより、最初から扱えるクラブを選んだほうがいいという思考にシフトしていったのだと思います。
GD ドライバーやウェッジの単品売りが始まったことで、従来のセット販売が崩れていきました。タイガー・ウッズが使っていたことで「クリーブランド」ブームが起こり、単品ウェッジの存在感が一気に高まりました。それと同時に、アイアンセットからSWが外れてPWまでとなり、「自分で1本ずつ選んで14本を組み立てる」というスタイルに変わっていきました。
その流れの中で、ロングアイアンに代わるギアとして登場したのが「ユーティリティ」(以下、UT)でした。プロギアの通称「タラコ」が爆発的にヒットし、その後に片山晋呉の活躍で「ショートウッド」が注目を集めるなど、ロングアイアンの領域をカバーするクラブが次々と生まれました。
しかし、結果としていま主流で生き残っているのは「ウッド型UT」です。ショートウッドやアイアン型UTは、なぜ進化の勢いを止めてしまったのでしょうか?
長谷部 ショートウッドが話題になった当時でもFWといえばまず3Wを買い、その流れで5番・7番・9番と買い足していくイメージでした。「一番難しい」と言われながらも、3Wが最も売れる時代が長く続いたんです。キャロウェイの「ヘブンウッド」が話題になり、追従した日本のメーカーの9Wも、特に女性やシニアゴルファーから高く評価されました。
ただ、「売れた」と言っても一部の層に限られた話で、全国の量販店でまんべんなく売れたわけではありませんでした。そのためメーカー側は「製造・開発効率が悪い」と判断し、次第に積極的な開発を行わなくなったんです。
効率化の波はシャフトスペックの絞り込みだけでなく、番手ラインナップの縮小にまで及びました。「ゼクシオ」のように今でも9Wを残しているブランドもありますが、多くのメーカーは製造・開発効率を考慮してショートウッドを削減し、そのリソースをウッド型UTへ投じた、というのが実態だと思います。
GD そもそもアマチュアには「フェアウェイウッド=難しい」という苦手意識があります。ロフトがついた9番ウッドであっても、形状がフェアウェイウッド(以下、FW)である以上、敬遠されてしまったのかなと思うのですが、どうでしょうか?
長谷部 それは絶対にあると思います。同じ21度や24度で比べた場合、UTよりもFWのほうが圧倒的に球が上がります。ただ、球が上がりすぎることで「思ったより飛ばない」という評価になりやすかった。「ラフやライが悪い場所での抜けの良さ」といったメリットの検証よりも、「飛ぶか飛ばないか」のイメージが先行してしまった印象がありますね。
それに加えて、クラブ長もUTのほうが短くてミートしやすい。「FWは難しい」「短いUTのほうがやさしい」というロジックを、メーカーやメディアが打ち出していった側面もあるのではないでしょうか。
GD 初期のUTはロングアイアンの代わりだったので、ロフト角も17度〜23度でした。それが今では25度、28度、30度と「下(ハイロフト)」の番手へと広がってきています。なぜFWは下へ伸びていかなかったのでしょうか?
長谷部 ヘッド形状における構造的な問題が大きいですね。FWは3Wが一番フェース面積が大きく、9Wのようにロフトが増すほどシャローになってフェース面積が小さくなっていました。そうすると構えたときに「当てにくそう」と感じますし、球が上がりすぎてテンプラ気味になるリスクも生じる。
それに対して、UTのフェース形状は面長のため構えたときの安心感が圧倒的です。100切りを目指すようなアマチュアにとってその差は顕著で、結果としてショートウッドの進化がそこで止まってしまったのだと思います。
GD 「操作性」という点で見ても、手元の感覚がダイレクトに伝わりやすいのはUTでしょうか?
長谷部 クラブ長が圧倒的に短いですからね。短いクラブで球がしっかり上がって、そこそこ飛ぶのであれば、「当てやすい」「操作性が高い」というのは間違いなくUTの大きなメリットです。
GD FWの「重心深度が深すぎる」という点も影響していますか?
長谷部 ショートウッドだと重心深度が深すぎるためスピンが入りすぎてしまい、球が高く上がりすぎてしまう傾向があります。これをメリットとして生かせるゴルファーでないと相性が悪く、プレーヤーを選んでしまうんです。
非力なシニアや女性など、球が上がりきらない人には絶対にショートウッドのほうが合うのですが。タイトリスト「GT1」などのように、ウェイトを前後入れ替えてスピンの調整ができるように最近のショートウッドも進化しています。
GD キャディバッグの中からアイアンが減り、いまや7番からという人も増えました。その上の番手は明らかにUTへ置き換わっています。代わりになる選択肢があるからこそ入れ替わるわけで、UTは確実に進化を遂げてきたクラブの代表格と言えますね。
長谷部 その通りです。UTが登場したことでショートウッドの領域を飲み込み、今やミドルアイアンの領域まで侵食しつつあります。ただ、UTはタイプが多種多様にあるため、選び方や番手の使い分けを正しく理解していないと、かえって迷ってしまうケースも増えているかもしれません。
GD ウッド型UTにも、「アゴが出ているタイプ」「中間型」「グースがついているタイプ」と大きく3つに分かれますよね。こうしたバリエーションの広がりも、UTが進化してきた要因でしょうか。
長谷部 間違いなくありますね。初期のUTは「キャスコ」や「リョービ」など独創的な形状でデビューしましたが、UTが狙っていた「汎用性」と「やさしさ」は正解だったわけです。それを起点に大手メーカーが参入し、ツアープロ向けのモデルも開発され、互いに切磋琢磨することで「ウッド型UT」が確立されました。
GD しかしこれらはすべて、アイアンの「ストロングロフト化」の裏返しとも言えます。
長谷部 まさにその通りです。7番アイアンのロフトが30度を切るようになると、5番アイアンは21〜23度まで立ってしまいます。昔の3番アイアンと同等のロフトを扱えるアマチュアなんてそういませんから、5番アイアンの存在価値自体がなくなってしまう。
それでもセットとして5番を入れざるを得ないメーカーのジレンマがあり、結果として「5番どころか6番アイアンも打てない」というゴルファーが増えてしまったわけです。
GD いくらヘッド構造が進化しても最終的にはロフト角が難易度を左右します。
長谷部 だからこそ、アイアンのストロングロフト化が「UTのさらなる市場拡大」をもたらしたと言えます。
GD 上の番手をUTがカバーした結果、今度は下の番手のギャップが空いてウェッジが3本、4本と増えていきました。
長谷部 4本はすごいですよね(笑)。
GD 下の領域に隙間が生まれたわけですが、ここにも少し違和感があります。(PWを除いて)ウェッジ3本までは定着しましたが、それ以上となると……。
長谷部 少し過剰な印象もあります。今後は「ウェッジセット」という概念が出てきてもおかしくないと思います。ウェッジも用途に応じて形状やバンスが多種多様で、「ボーケイ」のように同じロフトでも数種類のソールを用意しているブランドもあります。
しかし、シャフトを含めた全体のセッティングを考慮しないと構成がバラバラになりがちです。単品で買い足すより、下から4本をセットとしてマッチングさせた方が、ショートゲームの精度は上がる気がします。
GD アイアンのロフトが立ったことで、UTが組み込まれましたが、今後キャディバッグから「消えるもの」は何だと思いますか? 確実に言えるのは、バッグの中の「お飾りクラブ」は淘汰されるということですよね。
長谷部 間違いなく消えていますね。
GD 使えないクラブが消え、新しいギアがそこを埋めている。今最大のお飾りクラブは何でしょうか。やはり「3番ウッド」ですか?
長谷部 3番ウッドはアマチュアにとってすでに限界が見えています。メーカー側も5Wのほうが売れていると理解しつつも、ツアープロの多くが3Wをバッグに入れているため、ラインナップから消せないのが本音でしょう。しかし、アマチュアで3Wを使いこなせる人は激減しています。
今後は3Wが消え、代わりに大きめのヘッドの「2番(ブラッシー)」のような大型の「ティーショット特化型ギア」が増えていく可能性があると思っています。ミニドライバーがチタン製でやや高額な印象もあるのですが、ステンレス製の大きめな2番ウッドというのは面白いのではないでしょうか。
GD かつての「12本フルセット」には必ず「4番ウッド(バフィー)」が入っていました。4Wが姿を消した理由は、やはり5Wの台頭だったのでしょうか?
長谷部 日本では4Wが3Wの代用として非常に高く評価されていました。しかし、アメリカでは3Wを打ちこなせるゴルファーが多くいたため、海外ブランドが「3W・5W・7W」のセット構成を標準として提示してきたんです。
日本のメーカーは元々「3W・4W・5W」だったのですが、海外ブランドの「3W・5W・7W」の潮流に押される形で、4Wが姿を消したという歴史的経緯があります。
GD そういった流れがあったのですね。
長谷部 ですが、3Wを外すゴルファーが増えた今だからこそ、ハイロフトの「3HL」や、キャロウェイの「ミニバフィー」のような短尺・高ロフトの偶数番手ウッドが再評価され、復活する余地は十分にあると思います。
GD セッティングの上(ロングゲーム)と下(ショートゲーム)の両方で大きな地殻変動が起きていますが、そのすべての引き金となったのは「アイアンのストロングロフト化」だったと言えます。
長谷部 そうですね、アイアンのストロングロフト化が最大の要因です。かつて34〜35度だった7番アイアンが、今や30度を切る時代です。2番手分もロフトを立ててしまうというのは、冷静に考えれば異常事態であり、それが現代のクラブセッティング全体に大きな影響を与えているのだと思います。
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