2日連続で「1人ラウンド」が発生した真相
事の発端は、初日にペアを組む予定だったJ.J.スパーンの無念の棄権だった。火曜朝から右肩甲骨に「ナイフで刺されたような激痛」を覚えていたスパーンは、強行出場を試みて直前まで練習場でボールを打ったものの、スウィング時の強烈な捻転とフォースに身体が耐えきれず、バックスウィングすら満足にできない状態のため、スタート直前に無念の棄権(WD)を余儀なくされた。
予選落ちがないツアー選手権は、2日目から成績順の2人組(ペアリング)で組まれる。しかし、スパーンが1打も打たずに去ったことで出場選手は「29人(奇数)」となってしまった。その結果、初日イーブンパーで最下位(29位タイ)に沈んでいたキャメロン・ヤングが「奇数の余り」となり、2日目の朝一番(11時00分)に1人でティーオフすることになったのである。
ヤングが感じた「単独ラウンド」の真実と、ふたつの極上リズム
「試合で1人でプレーするなんて、本当に奇妙なパターンだよ。僕のキャリアでも一度も経験がなかった」
ヤングは苦笑いしながらも、1番ホールで「1人だけ」の名前がコールされる違和感を乗り越えた後は、驚くほど快適にプレーできたと明かす。
「一度状況に慣れてしまえば、あとは普段の練習ラウンドのようなものだった。調子が良い時は、そのままどんどん進めていけるから本当に簡単だったよ」
ゴルフは同伴競技者のリズムや前の組の進行に大きく影響を受ける。しかし、単独ラウンド最大のメリットはそこにあるとヤングは語る。
「誰も待つ必要がないし、急ぐ必要もない。自分のペースに合わないことは何一つ起こらないんだ。ただひたすらに自分の心地よいリズムに入り込み、プレーを続けることができた」
一方で、初日に同じく「1人旅」で「62」を出したミンウー・リーは、ヤングとは真逆の「リズムコントロール」を行っていた。
「1人だとどうしてもプレーが早くなってしまい、前の組に追いついて待たされるのが嫌だった。だから、あえて意識的に歩くスピードを落とし、前の組との距離感をコントロールして自分のリズムを保ったんだ」
「急がず自分のテンポを貫いた」ヤングと、「あえて歩行速度を落として前の組との間隔を保った」リー。アプローチこそ対照的だが、どちらも「他人にリズムを乱されないセルフコントロール」を徹底したことが爆発的なスコアに直結したのだ。
フラストレーションの脱出を支えた「直感的なギア変更」

パターをスコッティキャメロン「ファントム 10.5 エクスペリメンタル プロトタイプ」に変更したキャメロン・ヤング
この日のヤングはまさにゾーンに入っていた。13ホールでフェアウェイを捉え、14ホールでパーオンする完璧なボールストライキングを展開。「ここ4、5週間、そこそこ良いプレーをしてもパットが入らず最悪だった」と溜まりに溜まった不満を明かすヤングだったが、この「62」を導いた背景には「単独ラウンド」以外にも伏線があった。
ヤングは今週の月曜日、エースとして使用していたスコッティキャメロン「ファントム 9.5R ツアープロトタイプ」から、同じ形状でありながら、より見た目がシンプルなパター(スコッティキャメロン「ファントム 10.5 エクスペリメンタル プロトタイプ」)を練習グリーンで直感的にバッグに入れ、そのまま本戦へ投入していたのだ。初日は新ギアでのパットが噛み合わず「70」と出遅れたものの、自分を信じて使い続けた結果、2日目の静寂な1人旅でそのポテンシャルが完全に覚醒。最終18番(パー5)では約13メートル(41フィート7インチ)の劇的なイーグルパットを叩き込んだ。
【動画・約9分】キャメロン・ヤングの約13mを沈めたイーグルパットは3:10~【PGAツアー公式YouTube】
PGA TOUR Highlights | Round 2 | TOUR Championship
youtu.be実は初日に「62」を出したミンウー・リーも、近年の不調(「人生で最も悲しい数週間だった」)から脱出すべく、開幕直前にコーチから手渡されたステッカーのない3本のシャフトから「感覚だけで重いシャフトを選ぶブラインドテスト」を行い、急遽アイアンシャフトを変更して今大会に臨んでいた。2人の爆発的な「62」の裏には、直感を信じた勝負師としてのギアチェンジが存在していたのだ。
「良いゴルフは、あらゆるフラストレーションを解決してくれる」。不満を溜め込んでいた男が1人きりのラウンドで己のリズムを取り戻し、最高のフィニッシュで笑顔を取り戻した。
「59」より優勝争い――1人旅で蘇ったヤングが目指す年間王者の座
ラウンド後、「59」という大記録を意識したかと問われたヤングは、勝負師としての本音をのぞかせた。
「みんな『意識していない』なんて嘘をつくけれど、当然頭にはよぎるよ。でもツアー選手権という舞台の文脈で言えば、59を出せるかどうかではなく、自分を優勝争いができる位置に食い込ませることだけを考えていたんだ」
自分のペースを取り戻し、首位と2打差の5位タイにまで迫ったキャメロン・ヤング。他選手と同組となる週末のサバイバルで、この日掴んだ「自分だけのリズム」をどこまで維持できるか。年間王者争いをかき回すダークホースとして、彼のプレーから目が離せない。
写真/Getty Images

