今年で24回目を迎えた岩手県オープンは盛り上がりを見せた。大会を手掛けるのは実業家へ転身した異色のプロゴルファー金谷嶺孝(かなや・みねたか)。 ゴルフとビジネスの二刀流で成功した秘密を聞いた。【全2回・前編】

自社でインフラを保有する「4つの劇場」という考え方

金谷が展開するビジネスモデルの根幹にあるのが、他者から場所を借りるのではなく、自社でインフラを保有する「劇場を持つ」という思想だ。

「プロゴルファーは、自分たちの表現の場である『劇場』を自ら所有するべきだというのが私の持論です。他人の場所を借りて行うイベントには、どうしても制限や限界が生じるからです。自前の劇場を所有しているからこそ、単なる採算性にとらわれず『ゴルフを普及させたい』『子供たちを育てたい』という純粋な想いを込めた自由な企画を実行できます」

金谷は現在、4つの「劇場」を軸に事業を展開している。

●1つ目の劇場:地域密着のお祭り「岩手県オープンゴルフトーナメント」

画像: 岩手県オープンで優勝した鳥海颯汰(中央)を囲んでスタッフや関係者と記念撮影。金谷は後段左端にいる

岩手県オープンで優勝した鳥海颯汰(中央)を囲んでスタッフや関係者と記念撮影。金谷は後段左端にいる

男子プロ、シニアプロ、女子プロ、そしてアマチュアゴルファーが同じフィールドで競い合う大会を24年前にスタート。岩手県オープンは、当時まだゴルフ文化が十分に定着していなかった東北の地で、お祭りのように地域密着で人を集めるイベントへと成長させたことが成功の要因となった。一般的な地方オープンの枠を超え、ゴルフをやらないギャラリーでも楽しめる地域密着型大会のさきがけとなったのだ。

「20代半ばでアメリカ留学した際、プロとアマチュアが同じ組で回る大会を見て『日本でもいつかやりたい』と強く思いました。30歳で起業した当時、パソコンすらまともに打てない中で企画書を抱え、1社1社に頭を下げて協賛金を募り、手探りでスタートさせたのがこの大会です。当時は批判の声もありましたが、今では皆様が温かい応援者に変わってくれました」

●2つ目の劇場:本気でハマる空間を提供する「ゴルフ場経営」

画像: ゴルファーのための劇場として「栗駒ゴルフ倶楽部」(写真)や岩手県オープン開催コースのきたかみカントリークラブを所有している

ゴルファーのための劇場として「栗駒ゴルフ倶楽部」(写真)や岩手県オープン開催コースのきたかみカントリークラブを所有している

他人のコースを借りて活動することには限界がある。自社でゴルフ場を持つからこそ、思い切った投資や戦略が可能になる。取得した「きたかみカントリークラブ」では、プロの厳しい目線から芝やグリーンコンディションの改善に徹底投資。バブル期の格式ある建物の雰囲気を活かしつつリニューアルを施し、プレーヤーが心地よくゴルフを楽しめる舞台を整えた。

さらに、新たに「栗駒ゴルフ倶楽部」をグループへ迎えた。栗駒国定公園の豊かな自然に囲まれ、赤松林でセパレートされた27ホールの歴史あるコースにおいても、プロの目線からコースコンディションを向上させ、ゴルファーをさらに本気でハマらせるための新たな展開に踏み出している。

「ゴルフ場の生命線はコースコンディションです。ラーメン屋のスープと同じで、ここがダメなら人は呼べません」

プロならではの視点は徹底している。クラブハウスからスタートまでの動線を整え、アプローチ練習場を配するなど、プレーヤーが求める心地よさを具現化する。

さらには「コースは美しく戦略的でなければならない」という信念のもと、金谷自身がコースに入って高枝ハサミを握り、不要な枝を切り落とす。枝を払うことでティーグラウンドからの景観がひらけ、弾道をイメージしやすい美しさが現れる。美しく、難しく、だからこそ面白い。そのこだわりが、ゴルファーを魅了する極上の劇場を作り出している。

●3つ目の劇場:次世代を育てる「ゴルフ練習場」

35歳の時、親からの援助や借入れに頼らず買い取ったのがゴルフ練習場だ。自身がジュニア時代に「練習場の打席数が足りず、十分に練習させてもらえなかった」という悔しさを持っていたため、経営者となってからは、その練習場の2階打席をすべてジュニアへ無料開放した。

さらに、所有するゴルフ場もジュニアには無償で開放。夕方にコースを練習場として開放する代わりに、子供たちにはディボット跡の修復や目土作業というマナーの徹底を約束させた。コースメンテナンスに協力してもらう代わりに技術を磨くこの仕組みは、コース状態が良くなり後継者も育つという相乗効果を生み出し、地元出身の米澤蓮プロをはじめとする次世代ゴルファーの育成基盤となった。

●4つ目の劇場:上達する喜びを継続させる「インドアゴルフ事業」

25年前、世の中で「サブスクリプション」という言葉が定着する前から、フィットネスクラブの月額制をヒントに、定額料金でレッスンを提供するインドアゴルフのビジネスモデルを構築した。天候に左右されず、ゴルフが上達する喜びを継続して提供し続けるインフラとなっている。

人生をゴルフの18ホールに例えるマネジメント

金谷の「逆算のマネジメント」は、ビジネスだけでなく自身の人生設計そのものでもある。人生をゴルフの18ホールになぞらえるならば、100歳まで生きるとして56歳の現在はちょうどハーフを過ぎた後半の10番ホール、バックナインに入ったところだ。

「50歳までのフロントナインでは、OBやミスがあったとしても、そこから学びを得るための経験と捉えれば良いと考えています。本当に重要なのは、その失敗を活かし、後半のバックナインでいかにミスを避けて逆算通りのスコアにまとめるかです。上がり3ホールの16、17、18番を最高の幸福度でホールアウトするために、今どう動くべきか。この人生のマネジメントも、ゴールから逆算して組み立てるゴルフのロジックそのものなのです」

この金谷が掲げる「人生18ホールの逆算哲学」は、明治大学の先輩である深堀圭一郎プロとの対談でさらに深く語られる。【後編へつづく】


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