「スポーツ心理学」はスポーツでは最先端の分野である。「マインドコントロール」「イメージトレーニング」「インナーゴルフ」など・・・・・・。こうした言葉が最近目につく。
福井康雄は日本人第1号のプロゴルファー福井覚治の長男として生まれ、14歳の時にゴルフの道に入った。
言い方は悪いが、“古い世代”の人間である。
ところが福井の話す「ゴルフ理論」は、最先端のスポーツ心理学、とりわけインナーゴルフとよく似ているのだ――。

ゴルフ場が“異人場”、ゴルフボールが“異人ダマ”。そういわれていた昭和5年に、父・福井覚治が38歳で死去し、家族を養うため甲南ゴルフ場に勤め、ゴルフを始める。
誰にも教わらず、先入観もなくボールを打ち始め、そして“常識”で考える。
「あれだけの勢いでスウィングするのだから、途中で何かを考えることはできないはず。
どうすれば考えずにスウィングすることができるだろう。そうだ、アドレスした時にはボールが当たるようにセットされている。ボールは止まったままだ。あとはクラブを左右に振るだけで当る。
最初からうまくいくわけがない。そのうち体が慣れてくれば上手く当るようになる。ただ左右に振ることを考えればいい。決してボールに当てにいってはいけない」

――こうしたことを考え、打ち続ける。
3カ月ほどたったある日のこと。
「テークバックは飛球線に真っすぐ引いた方がいい」
ある人にそうアドバイスされ大口論となる。
福井は、こう考えていたからだ。
「スウィング軌道は円軌道で、その“円”が斜めになっている。テークバックだって円の一部である以上、真っすぐなんてことはあり得ない」
4カ月たったころから、人のスウィングを見てアドバイスするようになり、1年でシングルの腕前になった。15歳で雲仙GCまでレッスンをしに行くほど、評判となっていた。
体が小さいためトーナメントはあきらめていたが、その後58年間、レッスン一筋に打ち込んできた。
30万人以上を教えてきた。70人以上のシングルを育ててきた。倉本昌弘、三上法夫らのトッププロも送り出した。

福井の理論は、14歳の時から同じである。「正しいスウィングとは、人間の構造上、意識せずに当然できる動き」と定義づけている。
ゴルフを特殊なものとは考えてはいけない。
(1989年チョイスVol.46)
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“自然流”の極意は当てにいかない、意識しない ゴルフ伝道師 福井康雄【後編】