ショットメーカーが陥りやすい
パッティング・イップス

皮肉にも、ベルンハルト・ランガーの苦悩は、1985年のマスターズ初優勝からだった。世界屈指のショットメーカー。そのアイアンショットの切れ味と正確さは、当時、誰もが認めるものだった。

画像: 全身真っ赤なウェアが話題になった85年優勝時のランガー(右)。皮肉にもランガーのパットの苦悩はここから始まった(左は前年優勝者のベン・クレンショー)

全身真っ赤なウェアが話題になった85年優勝時のランガー(右)。皮肉にもランガーのパットの苦悩はここから始まった(左は前年優勝者のベン・クレンショー)

“暗黒の欧州ツアー”と呼ばれた時代があった。1980年前後の約20年間である。ランガーを含めて、セベ・バレステロス、そしてニック・ファルド、サンディ・ライル、イアン・ウーズナムたちが「欧州ツアーを活性化させるには、自分たちが世界のメジャーに勝つことだ」と一丸となった。そして彼らは、それをやり遂げた。

ランガーの苦悩はパッティングの“イップス”だった。ショットメーカーが陥りやすいイップスである。ショットが精緻だから、1ピン以内にボールをつける回数が多い。ところがその距離のパッティングを外してしまう。バーディ逃しであっても、ボギーを叩いたような気持ちにさせられる。

画像: 91年マスターズでのランガー。同年のライダーカップでは、最終日最終ホールで短いパットを外して引き分けとなり、結果的に米国チームに勝ちを譲ってしまった

91年マスターズでのランガー。同年のライダーカップでは、最終日最終ホールで短いパットを外して引き分けとなり、結果的に米国チームに勝ちを譲ってしまった

ランガーも同病だった。初優勝後、数年が過ぎても、ますますイップスは重病となった。当時、マスターズ直前に地元紙オーガスタクロニクルで一面すべてが、このランガーをモデルケースにして、イップス病特集が組まれたことがあった。

画像: 右手で左前腕とシャフトを一緒につかむというランガーグリップ

右手で左前腕とシャフトを一緒につかむというランガーグリップ

そして1993年マスターズ。ランガーが独特なパッティンググリップを採用し、蘇った。2度目のマスターズ優勝とともに、イップスを克服したのである。

画像: 前年優勝のフレッド・カプルスからグリーンジャケットを着させてもらうランガー。2度目のマスターズ制覇となった

前年優勝のフレッド・カプルスからグリーンジャケットを着させてもらうランガー。2度目のマスターズ制覇となった

いまランガーは、シニアツアーで活躍している。そのショットの素晴らしさとマネジメントは、色褪せない。それどころか、あれだけ悩んでいたパッティングイップスも、ない。むしろシニア入りしてからのほうが、パッティングの時の精神的余裕すら感じる。

画像: 今年のマスターズ最終日は、24歳差の松山英樹とラウンド。58歳の今も、オーガスタで通用することを見せつけた

今年のマスターズ最終日は、24歳差の松山英樹とラウンド。58歳の今も、オーガスタで通用することを見せつけた

井戸木鴻樹と仲良しで「メチャいいやつですよ(笑)」という。(文・三田村昌鳳)

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