全盛期のジャンボ尾崎を支えた伝説のキャディ、佐野木計至。ふたりの信頼関係がどのように築かれてきたのかに迫る。

「選手の心のラインを読む」これができれば一人前だ

難しいのか、易しいのか。普段は目にも止めないプロのキャディ。今回はジャンボの90勝を支えてきた男、佐野木さんにスポットを当て、プロのキャディの何たるかを、じっくりと教えてもらうことにした。

プロのトーナメントでキャディをやる時に、一番大切なことは何か? そりゃあやっぱり「目くばり、気くばり、心くばり」って奴だよな。言い換えれば、自分のボスが今、何を求めているのかをキッチリ把握してるかどうか。常に先々を読んで無駄なく動けるかどうか。こう見えてもオレは水瓶座のA型。さらにねずみ年。気品にあふれながらも、繊細、几帳面さは誰にも負けん。

で、常に冷静で動きが速い! ま、オレは生まれ持ってのキャディだったわけだけど、要するに、こういうことが自然にできるかどうか。これが一番大切だってことだよな。

画像: 常にジャンボ尾崎を気遣っていた

常にジャンボ尾崎を気遣っていた

以前、こんなことがあったよ。トーナメント会場を歩いてると、あるギャラリーが「ジャンボさんと佐野木さんの間にはサインがあるんでしょ」って言うんだ。オレは残りの距離を「いいな(117ヤード)」とか「入れよう(104ヤード)」ってコトバにして言うことは多いけど、さすがにサインまでは考えたこともない。

「だって、ジャンボがタバコ吸うと必ず灰皿があるし、ジャンボが汗を拭くときにはどこからともなくオシボリが出てきてるし……」ニヤっとしたよ、これには。要するに、ほらよく言うだろ、あれだよあれ、そう“あうんの呼吸”ってやつ。かっこよく言えば、プロの心のラインを読めて初めて一人前のキャディだってことなんだ。こんなこと言ってると「自慢話聞いてんじゃねーぞ」なんて言われそうだけど、たまには言わせてくれよ。20年もバッグ担いでるんだから。

話を戻そう。ところがだ。最近の若いやつ見てると、心のラインどころか“グリーンのライン”すら読めないでキャディやってるヤツが多いんだ。さらにピンの持ち方やバッグを置く位置、立つ位置。なんにもわからんで帯同しているのが結構いる。こりゃ基本中の基本だぞ! それで汗ビッショリでバタバタ走ってボス追いかけて……。これじゃプロはたまらんわ。試合になんて集中できんだろう。

画像: 試合に集中させてあげるのもキャディの仕事

試合に集中させてあげるのもキャディの仕事

もちろんオレだってそういう時代がなかったわけじゃない。20年前、ジャンボに「おい佐野木!息抜きでオレのキャディでも……」って言われたころには、距離もわからんし、ジャンボの球を見て「ゴッツイなぁ!」「よぉ飛ぶなぁ!」てなもんよ。ただひたすら感心してただけ。今考えれば宅配便の兄ちゃんだよな。その頃はラウンドメモなんてのもないし、距離を見るのも一般のゴルファーと同じで150ヤードと100ヤードの杭だけって時代よ。

でもそこで考えたのは、ハウスキャディじゃ出来ない何かをオレがしなきゃいけない、してやりたいってことだよな。漠然とマニュアル通りにやるだけだったら、そりゃハウスキャディ使ったほうがずーっとマシ。ライン読んだり、残りの距離教えるだけだったら、毎日そのコースにいるんだから何倍もよく知ってるに決まってる。

じゃあオレになにが出来るか。結論はマインド面のフォローだった。いろんな話したよ。「ジャンボの初恋の女は今頃どーしてんのかねぇ」とか「田舎の人、喜んでくれるだろうな」とかね。5年ぐらい経って少し余裕が出てくると、苦しい時なんか中学の校歌を歌ったりさ。オレが元気出さないとって思って前を歩いて歌うんだよ。で、ジャンボが後ろからついてくるんだよね。

画像: ジャンボ尾崎のプレーは佐野木の心配りに支えられていた

ジャンボ尾崎のプレーは佐野木の心配りに支えられていた

オクラホマミキサーってあるじゃん。あれでフェアウェイ踊ったりとかさ。いろいろしたよ。こうすればこうなるんじゃないかってこと、すべてやってきたような気がするな。

だからジャンボはよく「佐野木はオレの手のひらで遊んでるようなもんだ」って言うけどさ、オレにしてみれば、もう今は自分のことキャディだと思ってないもんな。“騎手”だもん。ジャンボが馬でオレが騎手。オレが書いたメモをみて「ここはこうだからこう行こう」「ヨッシャ!」てなもんよ。

同じ目線で2人で戦っているんだよな。その辺がわかってくると、やっぱりキャディはやめられんよ。

1995年月刊ゴルフダイジェスト10月号抜粋

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