「親父のおさがり鑑定団」では、過去モデルではあるものの、未来に継承したいそのクラブにまつわるエピソードをご紹介します。
クリーブランド「VAS 792T」
独特のネックでしっかりつかまる
「絶対にシャンクしない」とまでメーカーが言ったこの形状は、つかまり性能にかけては天下一品。ソールの接地面積が小さく抜けも抜群だった。この形状に馴染めばゴルフをとてもやさしくしてくれる。この形にインスパイアされたアイアンを他社が発売したことも話題になった。
性能を突きつめたひとつの究極形
まるでフェース面から生えているかのように、極端に湾曲したネック。構えてみると、ヒールがネックを突き抜けてしまっている。トラディショナルなアイアンを見慣れた目には極めて奇妙に映るこのアイアンは、クリーブランドのVAS(ヴァス)シリーズの792T。
米国でヒットしたのだが、革新的すぎるこのアイアンは、日本で人気を博すことはなかった。しかし、このアイアンとともにメジャーを獲ったのがコーリー・ペイビン。類まれなボールコントロールを駆使して、95年シネコックヒルズで開催された全米オープンでチャンピオンとなる。持ち球のフェードで難しいコースをピンポイントで突き刺しての勝利だった。
このVASアイアンは重心距離が短くヘッドターンが容易で、ボールをつかまえる性能に非常に長けている。グースネックであることもそれに輪をかけていた。VASのセールスコピーのひとつに「絶対にシャンクしない」というのがあった。ボールのつかまり性能にかけては絶対の自信があったのだろう。
この性能を最大限に発揮し、ペイビンはつかまったフェードを武器にしていた。こすり球のスライスと違い、つかまったフェードは飛距離が出る上にピタッと止まる。こうしてVASアイアンはペイビンの代名詞のように語られるようになった。
VASとはVibration Absorber System、つまり「振動吸収システム」を意味する。今でこそバックフェースに異素材を使って打感を求めるアイアンが売れているが、VASはその先駆けだったのだ。ステンレス鋳造の割に打感がいいと評判で、不人気だった日本でもユーザーからは称賛の声が上がっていた。
※月刊ゴルフダイジェスト2013年8月号
バックナンバー↓↓↓