父の死、離婚、度重なる手術。成功と同時に失うものも多かった
これまでに積み上げた勝ち星は米ツアーだけで『79』。メジャーはジャック・ニクラスの18勝には敵わないけれど14勝を挙げ、史上最強の名を欲しいままにしてきたタイガー。そんなこと百も承知。しかし、ありとあらゆる成功を収めながら、彼から孤独の香りを感じてしまうのはなぜだろう?
唐突だが最愛の父・アール氏が他界したのはプロデビューからちょうど10年後 の2006年のことだった。息を引き取った父のかたわらに寄り添ったタイガーは、腹違いの姉にこう言ったのだという。 「今にも歩きそうな気がする」と…。喪服に身を包み沈痛な面持ちで葬儀に臨んだタイガーの隣には前妻エリンさんの姿があった。
あれから10年。タイガーは多くのものを失った。エリンさんとの決別。一連のスキャンダルが名誉をも剥ぎ取った。さらに度重なる腰の手術で戦績はガタ落ち。「誰かの手を借りないと(腰が痛くて)ベッドから起き上がれなかった」と、世界ランク1位から897位へと滑り落ちた。
だが「競技の場で戦える時間は限られているかもしれない。でも少しでもその場に長くいたい」という思いでタイガーは帰って来た。
やはりタイガーのいる景色は違う。全体がピリッと締まる。復帰戦の「ヒーロー・ワールド・チャレン」では「ミスが多すぎた。でも初日の序盤からすでに試合勘が戻っていた。ミスを省いていけば、ものすごく良いゴルフができる可能性があると確信した」と前向きなコメントを口にした。
復帰の理由は「子供たちに戦う姿を見せたい」
幼少時代、タイガーには同世代の友達がいなかった。友と呼べるのは父の同僚である退役軍人たち。自宅近くの軍のゴルフ場で父とマンツーマンで特訓をしていたため、同世代の友達と遊ぶ暇などなかった。それが孤独のルーツ。それでも少年にとって、父と過ごす時間は至福だった。自分も大人になったら「父のような父親になりたい」と思った。だが2人の子供に恵まれながら、本人が望んだ理想の父親にはなれなかった。
昨年のこと。8歳になった娘のサムちゃんと7歳の息子チャーリー君とともに、タイガーはバハマでつかの間の休日を楽しんでいた。そこに取材のため訪れたUSAトゥデイ(雑誌)の記者が「お父さんとメッシ、どっちになりたい?」と2人の子供に尋ねたという。
するとサムちゃんは「メッシ!」と即答。「僕も。だって彼はサッカーしてるでしょ?」とチャーリー君。それを聞いてタイガーは大げさに肩を落とし「その通りだ(苦笑)」と頷いたという。子供たちに自分が戦う姿を焼きつけたい。父親魂が刺激された瞬間。それがタイガーが現場に帰ってきた理由のひとつ。
ここから始まる第二章。果たしてタイガーはどんな奇跡を起こしてくれるのか? 孤独と引き換えに、ゴルフの神様はタイガーに何を与えるのだろうか。