6番で6000回転。「アイアンの番手の数字×1000回転」がスピンの基準だが……
ガルシアはもともとスピンが非常に多い選手だったが、今回のマスターズでは完璧にスピンをコントロールしているように見えた。ガルシアの使用ボールは、「TP5」だが、そのTP5ボールは、ショートゲームでのスピン性能を保ちつつ、ロングゲームでのスピン量を減らしたボールなのだという。
みんなのゴルフダイジェスト編集部(以下、編集):今回のTP5とTP5xボールは、スピンを減らして飛距離を伸ばす設計だと聞きました。今日は、スピンについて聞かせていただきたいと思います。
ブノワ・ヴィンセント氏(以下、ブノワ):もちろんです。アイアンショットにおけるスピン量の基準をご存知でしょうか。プロが打った場合、どんなテストを行っても6番アイアンだと6000回転、5番だと5000回転といったように、だいたい「番手の数字かける1000回転」が基準となります。
ブノワ:ところが今回発表した「TP5x」ボールを打った場合、6番アイアンで5000回転までスピンが減ります。6番アイアンで打っても、5番のスピン量になり、その結果6番アイアンで約7ヤード飛距離が伸びるというデータがあります。
スピンが減るとグリーンで止まらない? キーワードは「降下角」
編集:なるほど。しかし、グリーンに止めたいアイアンショットの場合、スピンが減るのは必ずしもメリットではないのでは?
ブノワ:多くの方がそう言います(笑)。6番アイアンで半番手から1番手飛距離が伸びれば、ゴルフがラクになるのは誰でもイメージできるにもかかわらず、「それでは、グリーン上で止まらないんじゃない?」と。たしかに、そう感じる気持ちはわからないでもありません。
ブノワ:そもそも、ボールはどう止まるのでしょうか。重要なのは「スピン量」と「降下角」というふたつの要素、そのコンビネーションです。たとえば6番アイアンで6000回転のボールを打った場合、低く飛び出したボールが頂点に向けて舞い上がるような弾道になります。これが、スピンで止めるボールの弾道イメージです。
一方で、TP5xで打った場合、スピン量は5000回転。するとどうなるかといえば、スピンが少ない分初速が上がり、打ち出し角が高くなります。より速く、より高く打ち出されるため、弾道の頂点が6000回転で打った場合よりも高くなるのです。
その結果、降下角の数字はより大きくなります。より急角度で落ちてくるということです。スピン量は多ければ多いほど、降下角は大きければ大きいほど止まります。つまりスピンが少なくても、その分降下角が十分に大きければボールは止められるわけです。
編集:なるほど、同じ止まるにしても従来とは「止まり方」が異なるということですね。
オーガスタのグリーンは「ガラスのグリーン」と呼ばれるが、実際にガルシアのボールはしっかりとグリーン上で止まっていた。アイアンショットというと、なんとなくスピンが多いほうがいい気がするが、どうやらそれは誤解のようだ。
RBZがフェアウェイウッドにもたらしたのと同じ変化が、ボールにも起こる!?
ブノワ:「RBZ」というフェアウェイウッドをご存知でしょうか。テーラーメイドが2012年に発表したクラブです。RBZが世に出るまで、3番ウッドのスピン量はどのクラブをどのプロが打ってもだいたい「4500回転」でした。今は? 3000回転です。
RBZ以降、3番ウッドのスピン量は1000以上減っています。それがベーシックになったのです。今回のボールは、RBZが3番ウッドにもたらした変化をボールに対してもたらすと、私たちは考えています。
編集:つまり、従来のツアーボールとはまったく異なる設計思想のもと、生み出されたボールだということですね。
ブノワ:そうです、すでにあるものと同じものを作っても意味がありません。我々はリスクをとって、“違うもの”を作ったのです。
インタビュー中、終始穏やかに、しかし熱く自社の製品と、そして「スピン」という現象について説明してくれたヴィンセント氏。彼が作った「ほかとは違うボール」は、注目の新商品が重なって大激戦が繰り広げられているツアーボール市場の、台風の目となれるか、果たしてーー。