マスターズ23年生、ついに“卒業”の日が……?
メジャー4勝のエルスにとって2017年のマスターズがオーガスタ23回目の出場となる。94年の初出場からおよそ四半世紀。何度もグリーンジャケットに袖を通しそうになりながら、ついに勝利を手にすることはできなかった。そして今年、全英オープンの優勝(2012年)で得たメジャー出場の5年シードが切れるため“マスターズ卒業”が現実味を帯びてきた。
もちろん今回優勝すれば永遠に招待状が手元に届く。あるいは世界ランク50位以内に再浮上するか、米ツアーでフェデックスカップランキング30位以内に入れば出場権を獲得することができる。だが現在世界ランク404位のエルスにとって、いずれの項目も現実味は伴わない。
「もちろんわかっているよ。そのときはそのときさ。明るく楽しくプレーがしたい」と47歳になったエルスは静かに微笑む。優勝争いの緊迫した場面でも知り合いを見つければ人の良さそうな笑顔を向け、少年少女には飲み物まで振舞うやさしい男。
2016マスターズ、初日1番で悪夢の6パット
昨年のマスターズでは初日の1番で3オン6パットを叩き奈落の底に突き落とされた。
イップス。
ゴルファーにとってときに長く付き合わなければならない厄介な病である。棄権するのは簡単だった。だがエルスは戦い続けた。「後輩たちのお手本にならなきゃいけないからね。僕らの職業は決して勝ち戦(いくさ)ばかりではない。敗者となったときどう現実を受け止めるか。それが大事なんだ」(エルス)
そのエルスに同郷の後輩でマスターズ優勝経験のチャール・シュワーツェルはいう。
「彼は背中で僕らに教えてくれている。若い頃より最近の方が練習をするようになった。それなのに結果が出ない。年齢は残酷だ。でもその生き様を我々に示し続けてくれているんだ」
近くて遠いマスターズでの勝利
かつてエルスは“シルバーメダルコレクター”と呼ばれていた。メジャーのたびに優勝争いに絡むのだが、栄冠はタイガーやミケルソンに奪われてきた。マスターズもしかり。2000年にはビジェイ・シンに次いで2位。2004年は彼がもっともグリーンジャケットに近づいた年だった。
後続にストローク差をつけトップでホールアウト。プレーオフに備えパッティンググリーンでボールを転がしていたときだった。18番グリーンから地響きのような歓声が湧き上がった。バック9のバーディラッシュでエルスに追いついたミケルソンが、最終ホールでバーディを奪い初のメジャー制覇を達成した瞬間だった。
「あれは辛かった。あのときの悔しさは長く心の中にくすぶっていた」。賞金王より何より「メジャーに勝つ」ことがエルスの目指す道だった。特に23歳で初出場したマスターズの雰囲気の素晴らしさは彼をノックアウトした。初挑戦で8位に入り「キミはここで何度も勝つよ」とベン・クレンショー(マスターズ2勝)にいってもらった。「そんなこともあってオーガスタには入れ込み過ぎてしまったのかもしれない。反省点があるとしたらそれだね」(エルス)
エルスのゆったりとした美しいスウィングがマスターズで見られなくなったら……とても寂しい。オーガスタの女神よ、粋な計らいをお願いします。