「プロゴルファーとしてこんなに幸せなことはないなと思いました」
朝10時の段階で、過去の大会入場者数の記録を塗り替えたという発表があった最終日。訪れた大ギャラリーのほとんどが、藍のプレーを見守った。特に後半9ホールはふたつのチップインバーディを含む3バーディ1ボギーと出色のプレー。そして18番、嫌な距離のパーパットを沈め、笑顔の後、初めて涙を滲ませた。
——18番では涙も見られた。
「18番の景色(大ギャラリー)を見て、みなさんに対してありがとうという感謝の気持ちでプレーを終えて、もう気持ちを抑えなくてもいいのかなと思ったら、こみ上げるものがありましたね」
(一瞬言葉に詰まり、大きく息を吐く)
——涙の理由は?
「自分が思ったよりも何十倍もの方が、18ホール、4日間ついて回ってくれて、それだけの人がゴルフを観に来てくれて、頑張れー! と応援してくれて、プロゴルファーとしてこんなに幸せなことはないなと思いました。一生記憶に残る一週間でした」
——涙がこみ上げてきた、そのタイミングはいつだったのでしょう。
「今日は朝からやばかったです。ウォームアップも手につかないし、朝から感情的になっていました。でも、ティに行くとスッと切り替えられて。実は12番のチップインでも泣きそうになったんですが、そのときは『まだ終わってない』って。18番で集中してパーパットを沈めたあとは、もう抑える必要ないんだと思って、感情的になりました」
——そこには、「これで最後かもしれない」という寂しさも含めれていた?
「それはないです。(辞めるという決断は)最近の決断ではなくて、4〜5年考え続けたことで、覆らないので。だからこそ、(ギャラリーなどに)感謝の気持ちしかないですし、自分のゴルフに未練も迷いもなくて、今は感謝の気持ちだけですね」
——国内で出場予定のある試合は今回が最後だが、心境に変化は?
「(国内で)プレーしたくないとかではないんです。ただ、引退をアナウンスしてから気力・体力・モチベーションを維持できるのはそんなに長くないなと思っていて、頑張って9月までかなと思っています。今は残りの海外メジャーを戦い抜きたい。そのあと、気が抜けた状態で日本ツアーに出ても内容のないことになる不安がありますし、出るからにはいいプレーをお見せしたいので。(9月に、メジャー最終戦の)エビアンが終わってみないと、本当にわからないです」
——プロ生活を振り返って、楽しかったこと、苦しかったこと、どちらが多かった?
「半分半分ですね。調子がいいこともあったし、苦しいときもありました。世界1位になって、いけるかなと思ったけどプレッシャーに耐えていいプレーをするのが難しかったり、パター、ドライバーが思わぬ形で不調になったりもしました。ただ、4年間アメリカツアーで(毎年)勝ち続けることができたのは、自分の中で大きな成績だと思っています。やっぱり上位に居続けるのはすごく難しいので。特にここ2年は一番苦しい時期でした。自分の進退に悩んで、ゴルフの調子も上がらなくて。それでも、(プロ生活を振り返れば)すごく良かったなというのにたどり着きます」
これから宮里はアメリカに戻り、残りのメジャーへと照準を合わせていく。国内では今回のサントリーレディスでひと段落。だが、海の向こうでの“最後の戦い”はまだこれから。9月以降に日本でまたその雄姿を見たい気持ちをググッと抑え、まずは海外での現役最後の輝くプレーを、期待したい。
(撮影:姉崎正)