外ブラ育ちの若手プロ今平周吾がやってきた起こった「変化」
日本のプロモデルのドライバーといえば、つかまり重視でコントロール性能が高いものが求められる。ヤマハのクラブ開発も例外なく、そうであった。他社よりもよりつかまりを重視したモデルといってもいいかもしれない。そのポテンシャルの高さは美しい仕上げに打感のよさ、契約プロの藤田寛之と谷口徹の成績を見ても明らかだ。
一方、タイガー・ウッズの登場でゴルフはアスリート化し、パワーゲームの時代に突入してきた。そしてそれを見て育った、メタルもパーシモンも知らない若手プロたちが台頭している。
今平周吾もそのひとりだ。ヤマハと契約を結ぶ前はタイトリストと契約をしていた「外ブラ」育ちの若手プロ。インパクトで強く、真っすぐヘッドを動かすために左ひじを曲げたまま打つ。ジョーダン・スピースにも見られる、いまどきドライバーの打ち方の主流だ。
パーシモンやメタルを知るプロたちは、チタンドライバーが生まれて、ヘッドが大きくなると、つかまりのよさや高い操作性を求め続ける。しかし、いま日本だけではなく、世界のトップに立つ若い世代のゴルファーは、初めから大きなチタンヘッドで育っている。球を操ろうとはしない。ビッグボールでいかに遠くに飛ばせるかにこだわる。
そもそも打ち方が違うのだ。打ち方が違えばクラブの作り方も考え直さなければいけないのだ。
世界の基準はドッカーンと飛ばす直進弾道へ
ヤマハのRMX116、ブリヂストンのツアーB、ホンマのTW737など、日本のアスリートモデルは「小ぶりでハイバック」形状で、弾道を“作る”のに適している。対して、タイトリスト917D2、キャロウェイEPICサブゼロ、テーラーメイドのM1など、アメリカのアスリートモデルは「大型ヘッドでシャローバック」形状。そのメリットは、なんといっても直進性の高さにある。
シビアなクラブで弾道を操るゴルフと慣性モーメントの大きなクラブでドッカーンと飛ばしていくゴルフはまったく別モノ。藤田寛之もそのことに気づいていたが、今平の加入でそれは明確となった。
「『RMX116』は操作性がよく球の打ち分けがしやすい。でもそんなプレースタイルのプロは減ってきているのも認めなければいけないのです」(ヤマハゴルフHS事業推進部 商品開発グループ主幹 竹園拓也氏)
打点を変えて球のコントロールがしやすいクラブは、逆にいうと打点がバラつくことで曲がってしまう。慣性モーメントが大きければ曲がりを気にせずドーンと打っていける。開発のキーワードは、「ウェートは深く」、「慣性モーメントは大きく」だ。この性能をもったドライバーこそがプロが求めるクラブであった。
「藤田プロもそのとき何がベストかを考えるプロ。だから時代が変わっているのに道具が一緒のはずがないと言ってきました。いろんなことができるギアではなく、プロは勝てるギアが欲しいんです」(ヤマハゴルフHS事業推進部 プロサービス主任 大西裕士氏)
直進性の高い「強弾道」が打てる「和顔」のドライバーが“結論”
目指したのは、けっして大型化することなく、国産特有の顔のよさに大きな慣性モーメントを搭載すること。それをどう実現しようとしているのか、ニューモデルのモック(実物大模型)を見てみよう。
つかまりのよさを重視するのであれば、ウェートはヒール寄りがセオリーだった。しかし慣性モーメントのアップを狙ったニューモデルは後ろにウェートがある。
小ぶりなヘッドで重心を深くする箱型形状
もっとも進化し、このドライバーの特徴を表しているのは、トウ側から見た形状。かなりのディープバックだ。本来、ディープバックの形状のものは、重心が高くなる傾向にあるが「RMXプロト」は違う。フェースからいちばん遠く、低く、深い部分にウェートを配置し、慣性モーメントを大きくするためにこの形になったのだ。
藤田寛之は気づいていた。いまのクラブでは世界に通用しない
藤田寛之は、つねにそのとき何がベストかを考えるプロゴルファー。打ち方もボールも変わっているのにクラブが一緒のはずがないと、いまの打ち方にあった直進性にすぐれるドライバーをちょうど求めていた。そして、完成に近づいたプロトタイプを試打した藤田の第一印象は悪くないものだった。
いわば、わびさびのような、見た目のよさは捨てずに世界基準の直進性をもたせる。ヤマハの新しいドライバーが、これからの国産メーカーの指標となるかもしれない。