2017年9月10日の日曜日、午前10時29分。JAL選手権最終日のこの日、トム・ワトソンは10番ティからティオフして行った。いわゆるひとつの“裏街道”スタート。首位とは10打差と、優勝争いとはもうほぼ関係がないと言ってしまっていいこの順位から、ワトソンはどんなプレーを我々に見せてくれるのか。プロゴルファー中村修の解説を交えて、アマチュアが参考にすべきポイントを探ってきた!

スタートホールは完全なる“暖機運転”

スタートホールとなった10番ホールは532ヤードのパー5。グリーンエッジまで100ヤード前後の地点に多数のバンカーが配置されているため、2オンを狙うか、バンカー手前に刻むか、バンカー奥に刻むかの「三択」を迫られる戦略性の高いこのホールで、ワトソンは「バンカー手前に刻む」ことを選ぶ。

これは、極端に思えるほど安全第一なマネジメントだ。ティショットを260〜270ヤードほど飛ばしたワトソンは、200ヤードも打てばバンカーはクリアできる状況にいた。そこから7番前後のアイアンでバンカー手前に刻み、3打目でグリーンエッジに寄せると、危なげなくパーをセーブした。

プロゴルファー・中村修は、この出だしホールのプレーを「完全に、暖機運転」と分析する。

「トム・ワトソンの技量があれば、フェアウェイから200ヤード打ってバンカーを越えることは何でもないことなはず。それをあえて狙わずに、ほぼ同じ番手を2回連続で使うようなマネジメントを採用。おそらく、アイアンを2回続けて使うことで、“今日のアイアンの調子”を見ていたのではないかと思います」(中村)

というわけで、ワトソンから学ぶマネジメント術その1「出だしホールは、無理しない」。プロにとってはバーディを狙いたいパー5で、「パーで十分」というマネジメント。アマチュアゴルファーなら、スタートホールは「ボギーで十分」と思えば気持ち的にはラクなはずだ。

「もうひとつあります。アマチュアの方はパー5のレイアップというと、たとえば残り300ヤードからウッドやユーティリティを持ち、2打目で200、3打目で100を打つ、あるいは2打目220、3打目80のようなマネジメントをしがちですが、それはリスキー。ワトソンのように、150・150のようなマネジメントをすると、自分の調子も見極められますし、かえってやさしいケースも多くありますよ」(中村)

トム・ワトソンに学ぶマネジメント術その2「刻む時は、無理をしない」。これも覚えておきたい。

さて、つづく11番。ワトソンはティショットをわずかにフェアウェイ右に外す。スタンスがカート道路にかかるライからドロップせず(おそらく、ドロップするとさらにボールがラフに沈むと判断したと思われる)、そのまま打ってピン奥10数メートルにオン。そこから絶妙な距離感でファーストパットを寄せ、ここもパーセーブ。

画像: 11番。スタンスがカート道の状況だったが、ボールが浮いていたことからあえてドロップはせず、そのまま打ってパーセーブした

11番。スタンスがカート道の状況だったが、ボールが浮いていたことからあえてドロップはせず、そのまま打ってパーセーブした

予定通りにパーを奪った10番、軽めのトラブルを難なくこなした11番。ふたつのパーセーブを経て、ワトソンは12番(180ヤード、パー3)で軽めにアクセルを吹かす。グリーン左端、バンカー越えとなる厳しいピンに対し、ワトソンはグリーンセンターから軽めのドローで狙い、見事バーディチャンスにつける(結果はパー)。

「10番、11番といいパーをふたつとったことで、ワトソンの中で、今日はパットもショットも悪くないということが確認できたのでしょう。ほんの少しだけアクセルを吹かして、ピンを狙っていきました。このように、その日の自分の調子を見極めながらマネジメントしていくのは、アマチュアのみなさんにも是非見習っていただきたいポイントです」(中村)

というわけでトム・ワトソンに学ぶマネジメント術その3は「出だし2、3ホールで、その日の自分の調子を見極める」。調子の見極めがつかない出だしの1、2ホールはあくまで暖機運転に徹し、調子が良いと感じたら少しだけアクセルを吹かす。仮に調子が悪いと感じたら、マネジメントを“守り”に切り替えるのが肝心だ。

狙うホールと守るホールのメリハリをつける

さて、ワトソンのプレーは続く。13番は右のバンカー越えに切られたピンに対し、バンカーにかからないラインでセカンドをねらっていき、安全確実にグリーンをとらえ、ここもパー。

迎えた14番は、バンカー越えすぐにピンが切られた359ヤードの短いパー4。ここまで安全第一できていたワトソンは、ティショットをフェアウェイ右の絶好のポジションに置くと、ここぞとばかりにピンをデッドに狙う。ウェッジでピン手前50センチにピタリと落とし、そこからバックスピンで少し戻ったものの、ファーストパットを沈めてバーディ。

画像: 14番、低めの弾道でピンに寄せ切ったセカンドショット。攻めるべきところは攻める、メリハリの効いたマネジメントを見せてくれた

14番、低めの弾道でピンに寄せ切ったセカンドショット。攻めるべきところは攻める、メリハリの効いたマネジメントを見せてくれた

その後、17番の2オン可能なパー5でもきっちりバーディを奪って、終わってみれば前半の9ホールでピンチらしいピンチはグリーン手前にショートした15番だけ。そこも寄せてパーでしのいだワトソンは、この日最初の9ホールを2バーディノーボギーにまとめてみせた。お手本通り、まるで教科書のようにマネジメントされた、見事なゴルフであった。

「バーディを奪った14番や17番は、完全に狙ってとりに行っていましたね。一方で、出だしの10番などは徹底的に安全運転でパー狙い。バーディ狙いでもパー狙いでもないホールでは、無理にピンを狙わずにバンカーを避け、5メートル前後のバーディチャンスにオンさせて、入ればラッキーというゴルフをしていました。ワトソンは、バーディ狙い、パー狙い、その中間と、3段階の難易度設定を行い、その設定に従ってゴルフをしているようでした」

全ホールでピンを狙うのではなく、全ホールでグリーンを狙うのでもない。攻めと守りのバランスのとれたゴルフは、“極上”というべきものだった。というわけでトム・ワトソンに学ぶマネジメント術その4は「攻めるホールと守るホールのメリハリをつける」である。

さて、マネジメントの話になると、つい「それは、上手い人だからできるとでしょ?」と思いがちだ。狙ったところに打てるからこそ、マネジメントは意味がある。ボールが思わぬ方向に曲がるアマチュアは、マネジメントは不要、あるいは意味がないという考えにも一理があるように思える。

トム・ワトソンとアマチュアではレベルが圧倒的に違うのは自明のこと。ならば、ワトソンのマネジメントは参考にならないのだろうか?

「たしかに、1ホールに限って言えばその通りかもしれません。しかし、9ホール、18ホール、さらには年間を通してマネジメントを続ければ、平均スコアが大きく変わることは間違いありません。ワトソンのように精密なマネジメントができなくても、たとえばフェアウェイの左か、右か。ピンの手前か、奥かといったような、ざっくりとしたマネジメントならば、100が切れないレベルのゴルファーでも可能です。スウィングを変えるよりも、むしろスコアアップにつながると思いますよ」(中村)

最終日は結局2アンダーでプレーし、3日間トータル3アンダー、34位タイで記念すべきPGAツアーチャンピオンズ日本初開催のJAL選手権でのプレーを終え、「本当はエージシュート(年齢と同じかそれより少ないスコアでホールアウトすること)を狙っていたんですよ」とニヤリと笑ったワトソン。

そのプレーぶりは、日本のゴルファーに多くのことを伝えてくれる、価値あるものだった。

This article is a sponsored article by
''.