タイガーに憧れた80年代生まれ世代が、ツアーの飛距離を引き上げた
タイガー・ウッズがPGAツアーに登場する以前とそれ以降のもっとも大きな変化は、ティショットの飛距離です。タイガーがプロ転向したのは1996年で、それまで300ヤードを超えるドライバーショットが打てるのはジョン・デーリーなどごく一部のプロだけでした。
そんな中、タイガーはキャリアの初期から筋力強化のためのトレーニングを積極的に行い、飛距離を伸ばしていきました。それまでゴルフ界には筋力トレーニングに否定的な見解を持つ選手やコーチが多くおり、パワーよりテクニックが重視されていました。そのため飛距離は一部の選手の専売特許でしたが、タイガーのように計画的なフィジカルトーニングを積むことで、飛距離アップにつなげる選手が多く出てきたのです。
飛距離で他を圧倒する初期のタイガーのプレーを見てゴルフを覚えた80年代生まれのダスティン・ジョンソンやジェイソン・デイ、ローリー・マキロイといった現在のツアーの飛ばし屋たちは、筋力アップのトレーニングに力を入れています。ダスティン・ジョンソンのようにトレーナーを試合に帯同させて肉体の強化と管理を行う選手が多いため、試合会場では筋骨隆々な選手を多く見かけます。
タイガー自身は飛距離傾倒主義に陥りがちな現在のツアーに警鐘を鳴らしていますが、他のスポーツと同じように、ゴルフにもフィジカルトレーニングが広く浸透したのはタイガーが残した大きな功績と言ってもよいでしょう。
スウィング構築においてもタイガーはPGAツアー選手の模範となっています。タイガーへの憧れから、タイガーの元コーチであるブッチ・ハーモンに師事したアダム・スコットのように、今では当たり前になっている、コーチを常につけてパフォーマンスを上げていくという取り組み方も、タイガーの影響が大きいといってもいいでしょう。
タイガーはひざや腰を故障しながらも、当時タッグを組んでいたハンク・ヘイニーやショーン・フォーリーといった名コーチと幾度となくスウィング改造に取り組み、そのたびに見事な結果を残してきました。
スピース、トーマスらは「怪我と戦うタイガー」を見て育った
故障と闘いながらスウィングを変えていった頃のタイガーを見てゴルフを覚えたのが、今、ツアーを席巻している20代前半の選手たちです。とくに活躍が著しい2011年に高校を卒業した「クラス オブ 2011」と呼ばれるジョーダン・スピースやジャスティン・トーマスの世代は、タイガーがコーチと二人三脚でスウィングを作っていく姿を見て、客観的な目を取り入れてスウィングを体系的に組み立てていく重要性を学んだことでしょう。そのため彼らはキャリアの初期から長期的な視野でコーチとスウィングを構築しています。
先日、10カ月ぶりとなったタイガーの実戦復帰について、世代を問わず多くのプロがタイガーを祝福するコメントを出していました。今後本格的にPGAツアーに戻ってくることができれば、きっとまた何か新しい足跡をつけることになるでしょう。
40歳を過ぎてツアーに復帰したタイガーがどんな影響を及ぼしてくれるのか楽しみです。
写真/姉崎正