飛距離の伸びが注目される米ツアーだが、パットが重要な要素であることに変わりはない。パットに型なしというが、名手たちに共通する要素はないのか? 統計的データ分析の専門家であるゴウ・タナカが、パッティングの名手と言われるプレーヤーを分析した。

名手たちの共通点はなにか?

パッティングとはなんだろうか。まずは、数式で表してみよう。

パッティング=ストローク×セットアップ×グリップ×パター×距離感×ライン読み

数式化できない「ライン読み」という要素が入ってくることで、シンプルなパッティングが複雑なものになる。しかし物事には多かれ少なかれ必ず優劣が存在する。今回も統計的データを用いて分析してみた。

R160(超一流選手は、インパクト時にシャフトと左腕が作る角度が160度以内に収まる)と同じように、データ上、他を圧倒する数値を出しているプレーヤーがいないかをまず見つけ、そのプレーヤーたちに共通点があるかないかを徹底的にみる。今回はストロークゲインドパッティング(SGP)のデータを参照した。このデータは同じ距離からパットした時の優越を数値化したもので、パッティングの技術を純粋に測るには最適のデータといえる。

このデータの集計が始まってからの14年間で、安定して上位に入っているプレーヤーを探した。やはり不確定要素が入っているためかなりのばらつきが見られたが、何人かのプレーヤーが超一流と言えるパフォーマンスを残していた。

超一流のパットの名手と認定しても良いプレーヤーは4人。ルーク・ドナルド、アーロン・バデリー、グレッグ・チャーマーズ(ツアー1勝・44歳)、そしてブラント・スネデカーだ。彼らは長きに渡り安定したパフォーマンスを見せており、トップ10入りを5回以上果たし、さらにトップも取っている。ルーク・ドナルドは3年連続トップを実現しており、アーロン・バデリーは実に9回もトップ10入り(12位も2回)を果たしている。

画像: 左からルーク・ドナルド、アーロン・バデリー、グレッグ・チャーマーズ、ブラント・スネデカー。チャーマーズは知名度が低いが、2016年にPGAツアーで勝っている選手だ

左からルーク・ドナルド、アーロン・バデリー、グレッグ・チャーマーズ、ブラント・スネデカー。チャーマーズは知名度が低いが、2016年にPGAツアーで勝っている選手だ

では彼らに共通することがないか、ストローク、グリップ、セットアップ、リズム、使用パター等、できるだけ多くの観点から見て比較分析した。グリップは4人とも順手で、ストロークもイン・トゥ・インと共通していたが、セットアップ、使用パターなどは様々だった。グリップとストロークに関しては、大概のプレイヤーが、順手でイン・トゥ・インの起動でストロークしていること考えると、優位性の高さはあるにしてもそこまで高いとは言いづらい。

ただ、グリップに迷うなら順手、ストロークは理屈的にも、私はイン・トゥ・インを推奨する。あと、頭は動かさず、音でカップインを確認しろという格言がある中、この4人のプレーヤーのヘッドアップが早いことを見ると、ヘッドアップはパッティングにおいては良いと言えるだろう。

上に挙げた要素に絶対的に強い共通点と言えるほどのものはなかったが、他の面白いところに強い共通点が見つかった。それはルーティンだ。

名手たちはボールにセットアップしてから3.5秒以内に打っていた!

彼ら4人のルーティンに注目して素振りの回数、ホールを見る回数、パッティングにかける時間などを細かく分析した。すると非常におもしろい結果が出た。それは、決めてから打つまでに要する時間が非常に短いということだ。彼ら全員がパターの中心をボールにセットアップしてから3.5秒以内に打っていたのだ。スネデカーが1番早く1秒台、そして他の3人が3.3〜3.5秒だった(ボールに対峙してから打つまでの時間も、全員が5〜9秒と早かった)。実際に体感して見ると分かるのだが、3.5秒というのは想像以上に短い。

ちなみにタイガー・ウッズは距離によって変化があり6~9秒を要し、平均的な早さである。ストロークゲインドが投入されてからのデータで一度トップを記録し、トップ10も3回あるからパターは上手いほうと位置づけられるが、調子を崩してからは今ひとつ。ランキングを落としてから、またランキング1位に返り咲いた年も23位と悪くはないが、やはりショットの優位性が強い。タイガーのパットが上手いのは確かだが、上記の4人には及ばない。

画像: タイガーもパットの名手であるのは間違いない。ただ、今回のデータ分析の期間では“超一流”のカテゴリーには入らなかった

タイガーもパットの名手であるのは間違いない。ただ、今回のデータ分析の期間では“超一流”のカテゴリーには入らなかった

ではパッティングに難があると言われるプレーヤーの代表格であるセルヒオ・ガルシア、アダム・スコット、フィル・ミケルソン、そして松山英樹を見てみよう。結果はそれぞれガルシアがだいたい8秒、スコットは11秒、ミケルソンは9秒、そして松山は18秒だった。超一流の3.5秒よりも何倍も時間をかけていることがわかった。ほとんどのツアープレーヤーが4秒以上かける中、この4人が全員それ以下であるというデータは偶然とは言いづらく、かなりの優位性があると考えられる。

この速さは何を意味するのか? いくつかの意味が考えられる。まず一つは悩まない、悩めない、ということだ。自分が決めたラインを疑わず、決めたら打つという思いっきりの良さの表れだ。上でも述べたがパッティングには不確定要素が存在し、それを完全にコントロールすることは不可能だ。つまりいい意味での諦めが必要になってくる。慎重に、そして完璧にしようとすると、どうしても上に挙げた選手たちのように時間をかけ過ぎてしまう。

次は集中力との関係だ。時間は有限で、その時間は短いほど良く、質も上がる。3,5秒に収めるということはかなりプラスだ。もう1つは筋肉の硬直だ。時間をかければかけるほど筋肉は硬直していき、理想の動きができる可能性は低くなる。

そして、最後はイメージだ。これも当たり前のことだが、時間を要すれば要するほど先に描いたイメージは薄らいでいく。パッティングは描いたラインに正確に打ち出すことが重要なので、イメージが弱くなるのも良くない。これらを総括すると、セットアップしてから早く打つということは理にもかなっており、なぜ上記の4人が圧倒的な安定感を誇るのかもうなずける。

逆に時間をかけすぎるプレーヤーにも共通点がある。それはグリップ、パターを変えがちであるということだ。上で例としてあげた時間をかけるプレーヤーはこぞってグリップ、パターを頻繁に変える傾向にある。これは性格と考え方の問題だ。時間をかけない超一流プレーヤーはパターもグリップもほとんど変えない。グリップに関しては全く変えないと言ってもいいぐらいだ。ここでも彼らに迷いは感じられない。

つまり、超一流パッティングプレーヤーは
パッティング=ストローク×セットアップ×ライン×距離感
とシンプルに考えているのに対し、

他のプレイヤーは
パッティング=ストローク×セットアップ×ライン×距離感×パター×グリップ

となっており、数式はより複雑になる。パッティングが安定しないプレイヤーが打つまでに時間を要してしまう理由は、ここにも如実にあらわれていると言えるだろう。

ホールを見る回数は「1回だけ」

ショートゲームにおける卓越した理論で知られるデイブ・ペルツの研究で注目された、“ストロークがパッティングに与える影響はかなり少なく、そのほとんどはインパクトの瞬間のフェースの向きにある”というデータから考えても、パッティングをあまり神経質に考えるのはマイナスだろう。私がデータから見て思うパッティングの世界No.1とNo.2のコメントからも、パッティングで大事なことが見て取れる。

ルーク・ドナルドは「パッティングのストロークは動きがシンプルで小さく、エラーは起きにくいため、あまり意識せず、セットアップに集中することが大事」、と言っており、アーロン・バデリーも、「僕のパッティングは至ってシンプルだ、直感を信じ、芯で打つだけ」、と非常にシンプルにとらえていることが分かる。

画像: かつて449ホール連続3パットなしという途方ない記録を打ち立てたルーク・ドナルド。構えたら迷わずすぐ打つ

かつて449ホール連続3パットなしという途方ない記録を打ち立てたルーク・ドナルド。構えたら迷わずすぐ打つ

もうひとつ、アーロン・バデリーがおもしろいコメントを残していたので紹介しておく。「野球の内野手がファーストに投げる時、彼らはファーストミットを何度も見るかい?」上記の超一流パッティングプレーヤーの4人は、パターをボールにセットアップしてからホールを見る回数は全員1回だけである。1度しか見ないというのも、打つまでが早い1つの要因といえるだろう。

パッティングを極めるための最重要項目は明らかになった。彼ら全員がボールに対峙してから打つまでに9秒以内で打っており、パターをボールにセットアップしてからボールを打つまでの時間を3.5秒以内に収めているということだ。私はこれを「3.5秒パッティング」と呼んでいる。9秒以内を意識するより3.5秒のほうが分かりやすいので、私はこちらを推奨する。

これは誰にでもすぐできることなので、是非試してもらいたい。慣れるのに少し時間を要したが、私も3.5秒パッティングをとりいれてから、パッティングのパフォーマンスは劇的に上がった。大事なのはパターの中心をボールにセットアップしてから3.5秒以内にすることだ。素振りやライン読みに時間をかけることは問題ない。

そしてもう1つ大事なのは、あらゆる状況でこのリズムで打つことだ。クラッチ(勝負どころの)パットでは、人は慎重になり、要する時間は増える傾向にある。このリズムをいかなる状況でも保つのは意外と難しい。技術は必要ないが、メンタルは必要になるだろう。慣れるまでは時間に打たされている感覚になるだろうが、しばらくすれば慣れてくるので辛抱強く試してもらいたい。ゴルフはメンタルだと言われるが、ショットは技術でパットはメンタルだということがデータからは言えるだろう。

参考のためにR160メソッド流、3.5秒パッティングのルーティンを記しておく。
1 ボール後方からラインをイメージしながら素振りをする
2 イメージを保ちつつ、ラインに対して脚をセットアップして、次にパターの中心をボールにセットアップ
3 一度ラインを確認して、すぐに打つ

日本のエース、松山選手が3.5秒パッティングを自分のものにできれば「無敵」、そしてメジャー制覇はより早く、確実なものになると私は思う。

【R160メソッドまとめ】
1 スウィングにおいてもっとも重要なことはインパクトの角度
2 スコアメーキングにおいてもっとも重要なことは平均バーディ数をあげること
3 パー5の2オンは確実に30ヤード以内に寄せられないなら得意な距離を残し3打目勝負する
4 パッティングにおいて最も重要なことは、パターをボールにセットアップしてから3.5秒以内で打つこと(3.5秒パッティング)

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