アップデートを繰り返すタイガーのスウィング
最近のタイガー・ウッズは、見るたびに違うスウィングになっているという印象です。
2017年1月に故障明けで参戦したファーマーズ・インシュランス・オープンでは、体への負担を極力なくすため、クラブの運動量を多くしたスウィングになっていました。トップを大きくして、クラブヘッドを走らせるような打ち方です。フォローからフィニッシュにかけて前傾角度を維持している時間を短くするなど、とにかく体への負担を少なくしようという強い意志を感じました。一方で、運動量の大きくなったクラブを手元の動きで調整しようとするなど、付け焼き刃だなと思わせるような動きもありました。
その後、約1年間の長期休養に入りましたが、昨年12月に出場したヒーローワールドチャレンジで見せたスウィングは、1年前のものとはまた別のものだったのです。
最大の変化は下半身で、切り返しで地面を押すようにして下側に踏み込み、その反動の力(地面反力)を上半身の回転力に変換する動きを積極的に取り入れていました。これまでのタイガーは度重なる下半身の故障に見舞われ、プレーンや軸など、上半身のスウィング構成要素をメインとしたスウィングに取り組んできました。
それが直近のスウィングではインパクトで左足が浮くほど、強く地面を蹴っています。このような下半身を主体とした動きはこれまで取り組んできたタイガーのスウィングとはコンセプトが異なります。
さらに直近のファーマーズ・インシュランス・オープン(2018年1月)では、その地面反力を使った動きがマイナーチェンジされて、左足の浮き具合が少なく、さらにフィニッシュも少しだけおとなしいものになっていました。地面反力という新たな飛ばしのエンジンを使いつつ、よりコントロール性を重視した実戦的な形に変化させていることがうかがえます。
ファーマーズが開催されたトーリーパインズGCは、ヒーローワールドチャレンジが行われたアルバニーよりも、フェアウェイが狭く戦略的なコースです。それに加え、PGAツアーの公式戦だったという点も関係があるかもしれません(ヒーローワールドチャレンジは非公式戦)。
いずれにしても地面反力を取り入れたタイガーは、その力を安定して使えるように、細かな調整を重ねている段階にあるのです。
クラブを「斧」のように使うスウィングから「ロープ」のように使うスウィングへ
タイガーはこれまで4人のコーチに師事しています。最後の全盛期と言える2013年頃、コーチを務めていたのはショーン・フォーリーでした。そのフォーリーが傾倒するゴルフスウィング理論「ゴルフィングマシン」ではゴルファーのスウィングタイプを「ヒッター」と「スウィンガー」に分けています。フォーリー時代のタイガーは、斧で木を切るようにクラブシャフトに圧をかけて強いインパクトを作る、「ヒッター」タイプのスウィングをしていました。
しかし、故障後にコーチをゴルフバイオメカニクスを背景としたスイング構築を行うクリス・コモに変えて以降は、クラブをロープのように振って遠心力を活かす「スウィンガー」タイプのスウィングに変わってきています。とくにクラブヘッドのリリースの仕方が変わり、インパクト以降にクラブを放り投げるような動きに変化しています。
タイガーが「スウィンガー」に変身をしたのは、体への負担を小さくしたかったというのが最大の理由でしょう。
「スウィンガー」タイプのスイングでは、遠心力や地面反力(地面を蹴った反動の力)といった、自分の筋力以外の力を使う比重が大きくなるため、体への負担が小さくなります。40代を迎え自分よりも10歳以上若いトップ選手と、メジャータイトルをかけて争うことを想定したとき、タイガーが選んだのは体への負担が少なく、それでいて飛距離を伸ばすことができる「スウィンガー」タイプの動きだったのです。
「腰の痛みはなくなった。去年はこんなことはなかった。腰や脊椎の状態をよくすることに取り組んでいたが、もう完全に良くなったと感じている」
ファーマーズで繰り返し良好な体の状態に言及したのは、それだけフィジカルの状態に自信があるからでしょう。
2年ぶりに4日間公式戦を戦ったファーマーズでは、ジェイソン・デイやジョン・ラームといったランキング上位の選手と変わらない飛距離を出すタイガーは、ギャラリーから大きな声援を受けていました。
「スウィンガー」に進化をしたタイガーが、次週参戦を表明しているジェネシスオープンでどのようなプレーを見せるのか。そしてマスターズへ向けてどのような調整をしていくのか注目です。
写真提供:吉田洋一郎