自分を信じて自分を規制する
技術を磨くことは大切です。しかし、技術にこだわりすぎると、練習場ではいい球が打てても本番になると上手くいきません。だから、常に「心」を意識して練習することが大事なのです。ところが、こういう話をすると、「それは上級者の考え方であって、自分はスウィングが悪くて球が曲がるんだから、スウィングを直すことが第一なんだ」と言う人がいます。
確かに、球が曲がるからそうならないスウィングを身につけたいと考えるのは当然で、そういう練習も必要です。でも、ミスショットばかりが出る人だって、いいショットも出るはずです。その回数を増やすためには、ものの考え方でやらないといけません。
要は、練習の目的をスウィング作りだけに絞って「心」の問題をゼロにしてしまうと、一見美しく見えるスウィングが身についたとしても、そのスウィングを本番で生かすことができなくなってしまうのです。
本番では否応なく「心」が出てきて邪魔をします。だから、その対応策を持っていないと、技術を磨いたからといってナイスショットの回数が増えるとは限らない。技術を生かす練習をしておかないと、技術を磨く練習がムダになってしまうのです。そして、強いといわれる人ほど本番で実力を発揮できる能力が高いし、そのための練習もしているのです。
こういうことはプロレベルでも同じことが言えます。ゴルフが上手いけど強くない人というのは、「ゴルフ頭」がよくない。それは一般的な頭がいいとか悪いという意味ではありません。練習方法やマネジメントはもちろんですが、自分を信じることと同時に自分を規制することに頭を使っていない気がします。
常に基本に立ち返る。「心」を意識して練習する。「心」がなるべく出てこない技術を選び、ルーティンを大事にする。自分を信じて「心」が出てきてもやるべきスウィングをやりきる。そして、本番では自分のできることだけをやる。強いと言われない人は、そういうことができていません。言葉にすると、当たり前に聞こえるけど、強いゴルファーになるためには、それが一番大事で、逆に言うとそれしかないのです。
たとえば、片山晋呉は強い。ポテンシャルだけ考えれば、もっとすごい選手はたくさんいるのに、そういうプレーヤーが束になっても彼には敵わない。では、彼がいつも何をやっているのかというと、片手打ちだとか、逆(左)打ちだとか、ヒモを張ったパッティングの練習だとか、そういう非常にベーシックなものを何年もずっと続けているわけです。大リーグのイチロー選手が記録を達成したときに、「小さなことを重ねていくことが、とんでもないところへ行くただひとつの道だ」と言っていたそうですが、片山プロを見ていると「小さなこと」を続けていく大切さを改めて感じます。
そして、彼の場合、試合になったら自分ができることしかやらない。リスクの高いショットなんて絶対に選ばない。彼のそういう練習方法やマネジメント、つまり、自分を信じて自分を規制する考え方ややり方の中に強さのヒントがあると、私は思います。
「本番に強くなるゴルフ」(ゴルフダイジェスト新書)より
写真/岩井基剛