スウィングは「大きな変化」の途上にある
順調に復帰へのステップを重ねているタイガー・ウッズですが、ショットはまだ調整段階にあるようです。昨年末に参戦したヒーロー・ワールドチャレンジで見せたものと、2018年初戦のファーマーズ・インシュランス・オープンを戦ったスウィングは、若干違っていました。
ひざや腰への負担が少なくなるように、遠心力や地面反力を使って自分の筋力だけに頼らず回転を速める動きを取り入れたことで、クラブのコントロールが以前より難しくなっています。そのため、地面を蹴る量を少なくしたり、クラブの動きをコンパクトにしたりと、より自分のイメージが出しやすいフォームに、練習だけでなく実戦の中でもマイナーチェンジを行っていると考えられます。
大きな変化を遂げようとしているショットのフォームに対し、全盛期と変わっていないのがパッティングストロークです。ファーマーズでは、以前と変わらないイントゥイン軌道の振り子型のストロークで、基本の距離となる1~3メートルのパッティングをしっかりと決めていました。
ただ、転がりの良いボールを打てている一方、5メートル以上の長い距離ではカップを30センチ以上オーバーするシーンも見られました。
3メートル前後の距離に比べて、打つ機会が激減するロングパットは、練習量も少なくなりプレーヤーの感覚が非常に重要になります。
毎週試合に出ていれば、ロングパットを打つ機会があり、常に感覚を保っておくことができますが、タイガーのように長く実戦から離れているとそれが難しくなります。そういった感覚部分を取り戻すためか、練習グリーンでは右手のみを使い片手でストロークをする練習を繰り返していました。
タイガーのパッティングは振り子型のため、基本的に下半身を固定し上半身の回転でクラブを動かしていますが、距離感や細かいコントロールは右手で行います。
以前タイガーのパッティングコーチを務めたマリウス・フィルマターは「彼はアートのように、イメージをクラブに伝える能力に長けている」と、タイガーのパッティングに関する感性を表現しています。
そういったイメージの伝達能力を磨くために、右手一本のストロークを行っていたのではないでしょうか。タイガーはマリウスが指導していたときからこの右手の片手打ちの練習は行っていましたので、全盛期の状態をよみがえらせるために体の動きと手の動きをリンクさせる練習を繰り返していたのでしょう。
全盛期のタイガーが、当時最新のパッティング計測器を使ってストロークを計測したところ、下半身にまったく動きがなく、機械の故障を疑われたというエピソードがあります。
地面に根を張るようなどっしりとした構えと、「アート」とも評された感覚は、今後の復活に向けて大きな武器となる事は間違いありません。健康状態を維持し、試合勘を積むことができれば4月のマスターズで高速グリーンを制するタイガーの雄姿を再び見ることができるでしょう。
写真/吉田洋一郎