「昔に比べてドライバーは大きく、軽くなった」とよく言われる。それに伴って、実はドライバーは長くもなっている。1990年発売のブリヂストン「J'sメタル」ドライバーは43.5インチ、2018年発売の「ゼクシオテン」ドライバーは45.5インチと、約30年で2インチ(約5センチ)伸びたことになる。長尺化がもたらしたものをギアライターの高梨祥明がひも解く。

昔のゴルファーからみれば、今のドライバーは「長尺」だ

PGAツアーで“ショート(短尺)・ドライバー”が話題になったのは、ちょうど1年前だっただろうか。ジミー・ウォーカーがドライバーを42インチにして緒戦に勝利し、どうやらリッキー・ファウラーも43.5インチドライバーにしているぞ! と一部のゴルフファンの間ではちょっとした話題になったものだ。

画像: リッキー・ファウラーも短尺化に踏み切った一人

リッキー・ファウラーも短尺化に踏み切った一人

“ショート(短尺)・ドライバー”。45インチがスタンダードの時代においては、3インチも短いシャフトは、まさに“ショート”という表現が妥当であろう。では、1930年代のゴルファーが、45インチドライバーを目の当たりにしたらどう思うだろうか? おそらく、 “なんだ、このロング(長尺)ドライバーは!”と目を丸くするに違いない。なぜなら、1930年代のドライバー長さは42インチ〜43.5インチがスタンダードだったからだ。

画像: 1935年マグレガー社カタログより。この時代はゴルファーの身長によって推奨されるクラブ長さが違っていた。身長5フィート6インチ(167.64センチ)なら42インチ。6フィート(182.8センチ)以上なら43.5インチを推奨

1935年マグレガー社カタログより。この時代はゴルファーの身長によって推奨されるクラブ長さが違っていた。身長5フィート6インチ(167.64センチ)なら42インチ。6フィート(182.8センチ)以上なら43.5インチを推奨

これは何も1930年代のゴルファーだけの驚きではなく、1980年代のゴルファーにとっても、もっと古い1800年代後半のゴルファーにとっても同じだろうと思われる。それだけ、ドライバーの長さは43インチ前後が標準、という時代が長かったのだ。

1991年、ビッグバーサメタルからドライバーの長尺化が始まった

では、いつからドライバーは長尺化の道へと進んでいったのか? それはドライバーヘッドの大型化とともに、と考えれば簡単に答えが導き出せる。ドライバーヘッドの大型化を進める牽引役となったのは、1991年発売のキャロウェイの「ビッグバーサメタル」である。ヘッド体積は193cm3、長さは43.75インチだった。

それからわずか4年、チタン素材を採用しヘッド体積を250cm3までアップさせた「グレートビッグバーサチタン」が登場すると長さは45インチに。次の「ビゲストビッグバーサチタン」(290cm3/1997年発売)では46 インチまで長尺化したのである。

1980年代初頭までは木製ヘッドのスチールシャフト。80年代中盤からは小さいステンレスヘッドになったものの、長さは43.5インチのままだった。やはりターニングポイントは1991年の「ビッグバーサメタル」なのだ。シャフトもちょうどカーボンの登場で、軽量化しても強度が保てるようになった。数百年間変わることのなかったドライバーの長さが、わずか27年前にいきなり、ものすごいスピードで変わり始めたのだ。

画像: ビッグバーサメタルの登場は「ドライバーの長さ」の歴史を変えた

ビッグバーサメタルの登場は「ドライバーの長さ」の歴史を変えた

1991年に登場した「ビッグバーサメタル」は、ネックを短くし、シャフトをヘッド内で固定する貫通ホーゼルを採用することで、ネック分の重さを他の用途で使用することができた。他の用途とは、ずばりヘッドの大型化(慣性モーメント拡大/ミスに対するやさしさの向上)である。

大型&長尺の登場で、ドライバーはオール“ディスタンス系”になった

ヘッドの大型化とシャフトの長尺化は、ゴルファーへ大きな“飛距離アップ”を提供した。「ビッグバーサ」以降、ゴルファーの飛ばし心が急速に目覚めたといっていいかもしれない。ゴルフメーカーもそれに応えるべく、前作を超える飛びをゴルファーへの約束とし、開発を進め、さらなる飛びをアピールしてきた。これが直近30年のドライバーの話である。

しかし、ここで今一度書いておきたいのは、ジミー・ウォーカーの42インチ、リッキー・ファウラーの43.5インチのドライバー、あるいは多くのPGAプレーヤーが3W(43〜44インチ)でティショットすることは、今からみれば“ショート(短尺)”と表現されるものだが、わずか35年前のドライバーのスタンダード、当たり前でもあることだ。

さらなる飛距離アップを目指して、当時のゴルファーからみれば、驚くほど“ロング(長尺)”になった今どきドライバーは、簡単にいえば“ディスタンス系”ドライバーなのだ。PGAプレーヤーは、飛距離だけではなく、いいスコアで上がることを優先にしてクラブを選択する。目的が変わらないのだから、ゴルファーの先輩たちが数百年かけて決めてきたドライバーの標準長さに戻っていくことも、当然の帰結であるといえるのではないだろうか。

今、アイアンにマッスルバックもあれば、超ストロングロフトで長尺のディスタンス系モデルがあるように、ドライバーにもディスタンス系(今の主流)と、スタンダード(スコアリングドライバーとしての正常進化モデル)があればいいと思う。

問題は現状、我々アマチュアがティショットで使うには3Wは小さく、短く使うにはドライバーのヘッドは大きすぎ、ロフトが立ちすぎているためボールが上がらない、ということだ。スタンダードレングスでの使用を前提として、新たに、本気で開発したヘッドでなければ、現在のディスタンス系ドライバーと比較もできないし、選択肢にもならない。

PGAツアーで“ショート(短尺)・ドライバー”が話題になったのは、ちょうど1年前だった。あれから何か変わったのだろうか? 先人たちが決めたスタンダードを“ショート(短尺)”と表現しているうちは何も変わらないだろう。そんなふうにも思う。

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