5年ぶりの優勝を引き寄せたのは「勝利するための準備」をし続けたから
こんにちはケンジロウです。メキシコのチャプルテペックGCからお届けしております。メキシコ選手権の最終日が終わりました。みなさんテレビでご覧になっていましたか?
いやー、ジャスティン・トーマス(以下JT)の追い上げが凄かったですね。まくりにまくって、フィル・ミケルソン(以下フィル)とのプレーオフにまでもつれこみましたから。
JTは2日目終わった時点でトータルイーブンパー。3日目は裏街道からのスタート(注:決勝ラウンドでのINスタートのこと。低い順位であることを表す)でしたが、3日目を9アンダー、最終日は7アンダーを出し2日で16アンダーも縮めましたからね。先週のホンダクラシックに続き、2週連続優勝もすぐそこまでみえていました。
そのJTの勢いを見事にはね返したのがフィルでした。最終日5アンダーを出してトータル16アンダーでJTと並び、プレーオフひとホール目でパーセーブして「WGC」のタイトルを勝ちとりました。これでPGAツアー通算43勝目です。

5年ぶりツアー43勝目を挙げた47歳のフィル・ミケルソン
一緒に最終組で回ったインドの新星・シャルマはちょっとフィルの雰囲気にのまれちゃいましたかね。彼は21歳でフィルは47歳、その差26歳差ですよ。いやはや、恐れ入ります。
フィルはもうシニア入り間近なのに、なぜ若い選手と同じ舞台で活躍でき、そしていつもトップの位置に居続けられるのか?
その答えは、「そのための準備を怠らないから」に尽きると思います。それが何かと言うと、試合に入る前のカラダ作りだと思います。
フィルは試合前に入念なウォーミングアップをすることで有名で、クラブハウスの中で汗だくになるまで毎日体を作ってから練習場に向かいます。クラブハウスの中で重たいメディシンボールを投げるなどして、ウォーミングアップというよりむしろトレーニングに近い運動を行っているようです。
それだけ体を動かせる状態にしないとあの“振りちぎるスウィング"ができないということですね。
そして体がしっかり温まったあとに、練習場にやってくると、必ず最初に4本の棒(1つはクラブ)を振ります。しかもその4本には順番があるんです。
1本目は練習器具で、黄色いヘッドの重たいドライバー。これは打つこともできますが、基本は素振り用として使っています。もともと全体が重たいのにさらにネック回りに重りをつけて、バランスを重くしているんですよ。

黄色いヘッドの重いドライバーにさらに重りをつけて素振りをしている
続いて2本目〜4本目は先に重りのついた棒を振ります。それぞれ色わけがされていて、赤、緑、青の順番に振っていきます。赤から青にいくにつれてだんだん軽くなっていくようです。周りの選手が思わず振り返るぐらい、音がビュンビュン鳴るほどマン振りします。しかもゴルフのスイングではなく、体を大きく揺さぶって水平に振るんですね。

棒の先に重りの付いた練習器具をフルスウィングすることが47歳という年齢でもフルスウィングできる秘訣だ
最終日の練習場でフィルのこの一連の素振りを見ていたレックス倉本プロが解説してくれました。
「最初のドライバーの練習器具はヘッドを意識しながら、ヘッドを走らせる意味合いで振っています。そのあとの3本のおもり棒はヘッドの位置を考えずに体を使って思いっきり振っていますね。ひざを曲げ伸ばしして屈伸運動をしながら体全体でスピードを出していきます。実際のスウィングのスピードより速く振れて、軽くなるにつれてどんどんと速くなる。まさに自分の持っている“振る力のリミッター”を外す動きだと思います」(レックス倉本)
この4本の素振りが終わってフィルはようやく球を打ち始めるんです。1番ティからしっかり振れる事前の準備。優勝の陰にはこうした地道な努力が隠されていたんですね。
試合後のフィルのコメントです。
「ここ4年はベストコンディションで戦えずに本当にタフだった。でも自分を信じで自分と向き合って、それを打ち破れた。この優勝は自分でも信じられないよ。このコースで2日で16アンダーを出すような信じられないプレーをするJTには敬意を払うよ。彼のような若い選手ともう一度戦えるようになったのが嬉しいし、そしてこの優勝がまた自分を勇気づけてくれるね」(フィル)
これでマスターズがまた一段と面白くなってきましたね。タイガーが戻ってきて、フィルが復活し、JTら若手の台頭も見られます。
いったい誰がグリーンジャケットに袖を通すのか? 今から楽しみで仕方がありません。
写真/姉崎正