勝ったミケルソンも敗れたトーマスもすごかった
天才少女と言われたミシェル・ウィーが4年ぶりの復活優勝を遂げた直後、WGCメキシコ選手権ではフィル・ミケルソンが、2日間で2イーグル、14バーディで16アンダーという新世代の筆頭トーマスの異次元の追い上げを、脅威の集中力、経験、そして技術で凌ぎ、4年間遠ざかっていた優勝をプレーオフを経て手にした。
マスターズで3回も勝っているミケルソンが、いよいよその照準を合わせてきたように思える。今回のトーナメントでのスタッツは非常に安定しており、12個あるパー5で7アンダーと着実にスコアを伸ばし、パットもアプローチも安定していた。
また、ミケルソンを猛追したトーマスはパー5でミケルソンを超える8アンダーと相変わらずかなり高い水準を保っていた。3回に2回バーディーを取っている計算だ。これだけ勝つのもうなずけるスタッツである。
2017年の日本の賞金王である宮里選手もメキシコ選手権を戦った一人。彼は昨年、シーズンを通してパー5で50パーセント以上の頻度でバーディを取りその地位を手にしたのだが、今回のこの大会での彼のパー5でのスコアは4アンダー、確率は33パーセントと、日本にいた時の水準よりかなり低い。海外のセッティングの難しさが如実に現れている。
ショット・オブ・ザ・デイは、17番ホールでボギーを叩いた後、121ヤードの2打目を直接ねじ込みんだ、トーマスの奇跡とも思える18番ホールのイーグルかと思われるかもしれないが、個人的にはミケルソンが14番ホールで見せたショットを挙げる。
ティショットを大きく右に外したミケルソンのボールとピンの間は、高い木々がほぼ完全にブロックしていたが、上のほうにかすかに窓のように隙間が空いていた。ミケルソンは何度かその小さな“窓”を確認し、弾道をイメージしながら素振りをし、なんなくそこを通しグリーン手前のラフまで持っていった。その後はアプローチでベタピンにつけパーをセーブしたのだ。
打つまでの準備の様子、かけた時間、その後のリアクションを見る限り、ミケルソンにとってはそこまでリスクを高く感じていた一か八かのショットようには見えなかった。現地の解説は、我々には見えない隙間だ! と言っていたが、ミケルソンにはそのかすかな空間を通す自信があったのだろう。
つまり彼には自分の打つショットの弾道がくっきりと見えていたことになる。ミケルソンには14本あるクラブのその1つ1つの弾道がはっきりと見えており、それをあの瞬間に実行できてしまうという水準の高さには本当にびっくりさせられる。
真正面から上にある木の枝と枝の隙間を狙って打っていくというショットは、難易度、リスクが高く、私も見た記憶がほぼない。また一つ違う次元を感じさせられる。
猛追したトーマスは、データも示すようにトータルプレーヤーなのだが、特筆すべきはその飛距離とスウィングの安定感だ。私が見る限り、トーマスの体幹の強さはツアー1位、2位のレベルだろう。その対抗はマキロイだ。
この2人は驚かされるほどハードなトレーニングを積んでいるので有名だ。2人ともスウィングスピードが世界トップレベルの高さなのだが、スウィングのフィニッシュも誰よりも安定しており、どんなに振ってもブレる様子が滅多にない。
NBA、MLB、NFLなどアメリカのトップアスリートは皆専門分野のコーチをつけ、データを分析し、科学的トレーニングをしている。トーマスはスウィングのコーチ、パーソナルトレーニングのコーチなど、その専門分野のコーチをつけており、ミケルソンも複数の部門別コーチをつけてきた。物凄く高い意識レベルで準備し、戦っているのが見て取れる。この驚きのパフォーマンスができるのにも、素直に納得させられてしまう。
彼らの意識の高さは試合後のインタビューからも見て取れる。優勝したミケルソンも、第一声でその喜び、感謝をスウィングコーチに向けて話しており、惜しくも負けたトーマスもサポートへの感謝と自分がしてきたハードワークについても言及していた。
まるでショーを見ているかのようなパフォーマンス、そしてドラマを次々と生み出す超ハイレベルの今のPGAツアーだが、その新しい世代を目の当たりにしても、タイガーの全盛期を知るミケルソン、ザック・ジョンソンは、タイガーがいたそのレベルというのは、今の世代のトッププレーヤーとも比べられない異次元の世界だったとコメントしている。
そのタイガーも今年は順調に試合に出られており、来月開催のマスターズへ照準をあわせている。ゴルフ界を支えてきた復調を見せる2人のレジェンドが、マスターズで松山英樹を含む新世代を迎え撃つ。近年まれに見る盛り上がりを見せるマスターズになるのではないだろうか。少し気が早いが、今から楽しみで仕方がない。
写真/姉崎正