タイガー・ウッズの一番の魅力とは?
タイガーの全盛期のプレーを間近で観ていたころ私は彼の打球音に魅せられた。
タイガーは他のどのプレーヤーとも違う音を出した。ヘッドが奏でる音だけでなくグリーンを叩く「ドンッ」というボールの落下音にも鳥肌が立った。だがこれはあまりにもマニアックすぎる意見かもしれない。
なぜタイガーはこれほどゴルフファンを魅了するのか? PGAツアーを長年取材してきたゴルフカメラマンはいった。
「タイガーの一番の魅力はドライバーが曲がるところだ」
曲げたところからどんなミラクルを起こしてくれるかをファンたちは待っているのだ、と。
たとえば絶体絶命に見える林の中から、あるいは10回に1回しか出せないような深いラフから、タイガーはクラブを折りそうになりながら、ヘッドを芝に絡ませながら我々の想像を超えるショットを繰り出し不可能を可能にしてくれる。
「毎回フェアウェイをとらえていたら安定感はあるけれどつまらないじゃない」(前出のカメラマン)。
いわれてみれば確かにかつて世界を熱狂させた故セベ・バレステロスもそうだった。 ショットを曲げて駐車場に打ち込んでもそこからバーディを奪ってメジャーに勝った。
崖の下に落としても、そこから奇跡を起こしてきた。「ミラクルショット? いっぱいありすぎていちいち覚えていないよ(苦笑)」と生前セベ本人が語っていたが、曲がるショットとそのあとのミラクル、その落差にゴルフファンはスリルと興奮を覚え病みつきになる。こういう魅力を持った選手を人はカリスマと呼ぶ。
前の週に4年半ぶりの優勝を飾ったフィル・ミケルソンのプレーもそうだ。球を曲げながら「どこにそんなスペースがあるのか?」と皆が驚くような木々の隙間からグリーンを狙ってくる。破格のイマジネーションと技術が人の心を激しく揺さぶる。
ここのところの40代の逆襲(ミケルソン47歳、タイガー42歳、ケイシー40歳)は、ともすればシステマティックで優等生揃いの若手に「プロなんだから魅せてなんぼ」という、ひと味違ったメッセージになっているのかもしれない。
写真/岡沢裕行、姉崎正