つい先週、歴史的ぬか喜び。「マッチの鬼」が最後の切符をつかむ
世界マッチプレー選手権での優勝経験を持ち、過去のライダーカップ(欧米チーム対抗戦)で数々の伝説的プレーを披露、ヨーロッパチームを栄冠に導いてきたポールターは「マッチの鬼」の異名を持つ。そんな彼は前週のWGC-デル・マッチプレーでも準々決勝にコマを進めていた。
実はこのときポールターは「これで世界ランクトップ50入りは確実」と関係者に耳打ちされ、内心ほっと胸をなで下ろしていた。
ところが準々決勝で敗れ5位タイで終戦すると翌々日に発表された最新のランキングを見て我が目を疑った。50位以内に入っているはずが51位にとどまっているではないか!
たった1ランクの違いだが50位と51位では天と地ほどの違いがある。50位ならセーフ、51位はアウト。マスターズの出場権がかかっているからだ。「大丈夫といわれて安心したら突然ハシゴを外されてしまった。精神的にも肉体的にも打ちのめされたよ」。ぬか喜びに終わった前週の顛末をポールターはこう表現した。
すると翌週のヒューストンでは初日「73」で123位タイ。絶望的なスコアに「ほらね、と思った。こんな状態じゃやってられない。荷物をまとめて家に帰ろうと荷造りを済ませて2日目のラウンドに向かったんだ」
しかしティグランドに立つと不思議なことに「とにかく自分のゴルフをしてどんな結果になるかは終わったあとで考えれば良い」と気持ちが切り替わっていた。
結果、第2ラウンドで「64」の好スコアを叩き出し23位タイにジャンプアップ。3日目も「65」の猛攻でついにトップタイに浮上したのだ。
ボー・ホスラーと一騎打ちとなった最終日は最後まで息の抜けない展開が続いた。バック9で相手に4連続バーディを決められ1打ビハインド迎えた最終18番、6メートルのバーディパットをねじ込むよ拳で胸を何度も叩いて強心臓をアピール。さすがはマッチの鬼である。その1打でプレーオフに持ち込んだポールターがホスラーを下し42歳にして米ツアー3勝目をものにした。
42歳のベテランがマスターズに初出場したのは2004年のことだった。奇抜な髪型にスタイリッシュなファッションの異端児。当時は髪をツンツンと立てたスタイルを「お行儀が悪い」「紳士のスポーツにそぐわない」と眉をひそめる人もいた。
「果たしてマスターズ委員会はポールターを受け入れるのか?」という議論まで持ち上がったがお咎めなし。いまや髪型も落ち着きヒゲに白いものが混じる渋い中年になった。当然マスターズ側は最後の切符をつかんだカリスマ性のあるイングランド人を歓迎するだろう。
それにしても今季はタイガーの予想外に早い復調に加え、ミケルソン(WGC-メキシコ選手権優勝)、ポール・ケイシー(バルスパー選手権優勝)そしてポールターとここ1カ月で3人の40代のチャンピオンが誕生し俄然ツアーが面白くなった。
来るべきマスターズではキッズ(若手)たちに占領されていたチャンピオンズサークルにベテラン勢が割って入ることで、ワクワクするようなドラマが生まれるに違いない。
写真/姉崎正