力士のパワーの源は……ツマ先!?
大相撲の取り組みで「見合って見合って……」と行司が掛け声を上げているとき、力士は前のめりになりがらツマ先で立っている。立ち合いで力負けしないように、戦闘態勢を整えているのだ。
「土俵で相撲を取っているとき、力士は足のカカトを地面につけず浮かせています。ツマ先に体重を乗せて立っているわけです。“すり足”や“押し出し”はもとより、他の動作をするときもほとんどがそう。理由はカンタン、そのほうがパワーを出せるからです」
そう語る浦コーチ。ツマ先立ちというと不安定な印象を受けるが、さにあらずで、パワーを出すためには必須なんだという。
「あの巨体と爆発的なパワーを支えているのは足のツマ先であり、力士にとって力の源。足指の力、ツマ先の力ってとっても偉大なんです。人間の体は、体重がカカトに乗ると体を骨格で支えるので、筋肉が使えなくなりエネルギーが出せません。でも、ツマ先に体重を乗せることで、使う筋肉量が増えるので大きなパワーが出せるんです」(浦、以下同)
たとえば、前に向かって走るときは当然のようにツマ先に体重をかけるが、後ろ向きに走るときでもカカト体重にはならず、やはりツマ先で立って走る。なぜなら、速く走る力を生むためには、筋肉を使わなければいけないから。ツマ先で立つことは人間が運動パフォーマンスを発揮するための大原則であり、ゴルフのスウィングでもツマ先に体重を乗せてこそボールを飛ばせるという。
決まり手は「つり出し」ではなく「押し出し」で
「体重をツマ先に乗せて振ることで、腓骨筋、大腿四頭筋、腹直筋、前腕といった体の前面にある筋肉がたくさん使えるようになって、より大きなパワーをボールに伝えて力強く“押せる”んです。そういう筋肉が使えているか・使えていないかで、飛ぶ・飛ばないの差がハッキリと表れるもの。少なくともインパクトまでは、ツマ先に体重を乗せたままのイメージでスウィングしたいですね。ただしツマ先体重といっても、カカトの浮き具合が見えるか・見えないかくらいでも構いません」
アマチュアの中には、重たいモノを持ち上げるときの体勢で「腰をドシっと落として下半身を踏ん張って構えなさい」と教えられた人も多いのでは? ところがそれでは、カカト体重になるだけでなく、骨盤が立ってしまい(水平の状態)前傾姿勢が作れない、いわゆる“突っ立ちアドレス”になるという。
「それを相撲にたとえるなら、相手の両まわしを抱えて持ち上げる動きであり、決まり手で言えば“吊り出し”の体勢。ゴルフのスウィングでは、ゼッタイにやってはいけません。そうではなくツマ先重心にすることで、自然と骨盤が前傾します。上半身は必ず、骨盤の角度に合わせて動くようにできていますから」
力士同士が土俵際でせめぎ合い、勝負を決めるあの瞬間。“押し出し”の体勢こそ、ボールを力強く飛ばすカタチなのだ。
撮影/有原裕晶