大学時代からスウィングは完成されていた
先週のRBCヘリテージで小平は最終日5アンダーで逆転優勝を決め、米ツアーシード、来年のマスターズ出場権などを手にした。データ分析、スウィング偏差値、パッティングなど色々加味したときに松山に次ぐ日本の2番手だと以前書いたこともあったが、凄いスピードで快挙を成し遂げた。日本ツアーでは常に上位なのは容易に想像できるが、米ツアーでの優勝は小平の飛距離を考えるとそう簡単ではないと思っていた。
日本No.1の松山は米ツアーでもまったく引けを取らない飛距離、そしてアイアンショットの精度を武器に堂々と世界のトッププレーヤーとして戦っている。一方、小平の飛距離は米ツアーのトップに匹敵するかと問われると、非常に厳しいものがある。それでも米ツアーで戦い、優勝まで成し遂げられたのは、彼のスウィングの完成度の高さゆえだろう。
小平がまだ大学生のときに日本アマでのスウィングを見た時に、すぐスロー撮影をしスウィング分析したが、そのレベルの高さに驚かされたのを今でも覚えている。飛距離においては松山に完全に軍配が上がるが、スウィングの完成度を統計的データで分析した場合は、松山をも凌いでいると言える。
インパクトはR160(編集部注:インパクト時の左手とシャフトが作る角度が160度以下であること。ゴウ・タナカが提唱する一流の条件)を満たしており、非常に良いし、バックスウィングはスクウェアに引き、切り返しではループターン(ダウンスウィングでバックスウィングの軌道よりもインサイドからクラブが下りてくる動き)を使い、石川遼が今目指していると思われるフラットにシャフトを右肩下のラインから下ろすダウンスウィングで、その際の腰の切れも申し分ない。
あのロリー・マキロイと比較しても、マキロイのほうがよりインサイドに腕をおろすものの、シャフトの動きは非常に酷似している。また、ダウンスウィングのタメは強いほうで、インパクトに向けて軸がブレることも一切ない。飛距離効率の目安になるフォローのたたみは標準レベルだ。松山の場合、インパクトは非常に良いがループターンは使っておらず、スウィング軌道は小平に比べ少しカット気味でややブレやすいところがある。
飛距離だけを見ると、世界と戦うには非常に厳しいデータだと言えるが、スウィングの完成度において小平は世界水準をすべて満たしているのだ。
パッティングに関しても非常に良い。データ上パットのパフォーマンスにもっとも影響を与える、パッティングにかける時間も2.6~4.3秒と非常に良い。長めのパットになるとかかる時間がやや増えるので、もう少し早く(3,5秒が目安)打てるようになると結果はなお良くなるだろう。このように、飛距離以外のベースの部分では小平はかなり高いレベルであり、松山さえも上回っていると、データ分析からは言える。
パー5でのパフォーマンス向上が今後の課題か
ただ、米ツアーで安定して上位で戦うために必要な要素の中で、飛距離がしめる割合は非常に高い。
小平は今大会の平均飛距離1位と比較すると30ヤードほど少ない数値で、この差はかなり大きなものだ。他の上位陣がパー5でスコアを伸ばす中、小平は4日間トータルで5アンダーとやや物足りなかった。プレーオフで戦ったキム・シウは9アンダーだ。そして、3位タイのブライソン・デシャンボーは6アンダー(1度トリプルボギーを叩いたにもかかわらず)だった。
今回のRBCヘリテージではパー5が3つのみと、チャンスホールが少ないコースなのでパー5でのバーディ率が重要だが、逆にスコアは出にくいのでパー3、4のバーディが威力を発揮する。パー5が少ないコースのほうがロングヒッターのチャンスが減るので、飛距離の出ない小平のような選手にはチャンスが多いと言えるだろう。実際に小平はパー3、4でたくさんバーディが取れており、パー5でもう少しバーディが取れていればもっと楽に勝てていた内容だった。
それでも、その少ないチャンスをものにしたのは本当に凄いことだ。
ゴルフでは安定してバーディが取れるのはパー5のみなので、パー5でのパフォーマンスが高くなかったのは今後に向けての懸念材料でもあり、さらなる希望とも言える。パッティングもうまく、メンタルも強く、スウィングも良い。後は米ツアーでパー5をいかに攻略するかが大きな鍵だ。やはりヘッドスピード53m/s~、ボール初速76.9m/s以上が最低の目安で、肉体面のさらなる強化が1番の課題になってくるのではないだろうか。
松山も小平に世界のトップを争いましょうとメッセージを送ったそうだが、飛距離を強化できれば、その可能性も現実のものとなるのではないだろうか。
撮影/姉崎正