プレーオフ初戦「ノーザントラスト」を制し、ライダーカップ米代表チーム入りを確実なものにしたブライソン・デシャンボー。元ゴルフ誌編集長が、自らの目で見たデシャンボーを語る。

フェデックス・カップファイナル第1戦、「ノーザントラストオープン」でブライソン・デシャンボーが2位のトニー・フィナウに4打差をつけて優勝。今季は「メモリアルトーナメント」に続き、2勝目を飾り、PGAツアー通算3勝目を飾った。

前週までの時点で、ライダーカップランキングでは9位だったので、キャプテン推薦を待たずして今回の優勝により初出場をほぼ決めたと言っていいだろう(8位まではランキングにより決定)。

画像: デシャンボーのフェデックスカップ・ポイントは8月27日時点で3617ポイント。ノーザントラスト優勝で9位から1位へ躍り出た(写真2018年の全米オープン 撮影/岡沢裕行)

デシャンボーのフェデックスカップ・ポイントは8月27日時点で3617ポイント。ノーザントラスト優勝で9位から1位へ躍り出た(写真2018年の全米オープン 撮影/岡沢裕行)

デシャンボーといえば2016年、彼がまだアマチュアで、マスターズに全米アマチャンピオンとして出場した頃、「まるでアーノルド・パーマーのような若手が出てきたな」と思ったものだ。長身で、甘いマスク。大勢の家族を引き連れて、ガヤガヤとオーガスタに乗り込んできたような感じだったが、まったく見ず知らずのパトロン達に声をかけられても、笑顔でフレンドリーに答え返したり、サインに応じたりと、生前のアーノルド・パーマーのようなまぶしい存在だった。

どちらかといえば、ジョーダン・スピースやジャスティン・トーマスのような品行方正な優等生タイプではなく、型破りでちょっとやんちゃなアメリカのティーンエージャーのような雰囲気。しかもアメリカ人選手には珍しくイケメン! 最近のアメリカ人プロで、イケメンといえば、ショーン・オヘアくらいしか思い浮かばないが、久しぶりに心ときめく大型新人が米国ゴルフ界に誕生した、とアマチュアの彼を見て、心から嬉しく思ったものだ。

だがそんなやんちゃなイメージの一方で、彼は非常に頭がよく、ゴルフ界の科学者的存在。ちょっと変わり者である。

サザンメソジスト大学で物理学を専攻した彼は、自身のゴルフスイングにおいても、物理的(科学的)な理論に則った打法でスイングをしている。3番アイアンからウェッジまでのシャフトの長さを6番アイアンと同じ37.5インチにし、ライ角やバウンス角も同じにすることで、どの番手も同じスウィングで打てればいい、というのだから、その理論はユニークだがシンプルで、理にかなったものと言っていいだろう(しかもツアーで優勝しているのだから、理屈としては間違ってはいないはずだ)。

画像: デシャンボーといえば長さが同じワンレングスアイアン。ノーコック打法も相まって、正確なショットが持ち味だ(写真/2018年の全米オープン 撮影/岡沢裕行)

デシャンボーといえば長さが同じワンレングスアイアン。ノーコック打法も相まって、正確なショットが持ち味だ(写真/2018年の全米オープン 撮影/岡沢裕行)

ドライバーからアイアン、パターまでほとんどノーコック打法なので、打つ時のタイミング次第で入射角が変わることもないし、スピン量なども自ずと安定するような打ち方、というわけである。他のプロが彼の打法を取り入れることはないにせよ、ムダのないシンプルなものだ。

デシャンボーのゴルフに対する考え方や、スウィングについての理論は、ツアー選手たちにも面白がられ、ミケルソンなどは一緒に練習ラウンドしながら、デシャンボーにあれこれ質問し、感心仕切りの様子だったのを見たことがある。また、最近ではタイガーとウマが合うようで、よく一緒に練習ラウンドをしている。

タイガー曰く、「自分とは考え方が違うが、彼の言いたいことはよくわかる。でも時々、理屈ばかり言うので、打って見せてやることもあるよ。ほら、こういうことだろう? と……」。

タイガーも笑顔で話を聞き入っているので、デシャンボーのことは面白いヤツだと思いながら、認めているんだと思う。

彼の頭の中には、スウィングの方程式があるのだろうか? あるとすればどんな……? 彼にインタビューすると、他のプロが言わないような小難しい単語を使いながらスウィングやクラブのことを説明してくれるので、聞き手の私も正直ちんぷんかんぷんな時もあるが(苦笑)、一つ言えるのは、ここまで自分なりに論理的に数学的にゴルフを語れる人は、今のツアーにはいないということだ。

画像: ツアーでも非常に個性的な選手の一人であること、そしてたしかな実力の持ち主であることは疑う余地がない(写真/2018年の全米オープン 撮影/岡沢裕行)

ツアーでも非常に個性的な選手の一人であること、そしてたしかな実力の持ち主であることは疑う余地がない(写真/2018年の全米オープン 撮影/岡沢裕行)

また、この話はかなりゴルフ通の間では有名な話だが、彼は支給されるボールを1球1球塩水(入浴剤に入っている塩化ナトリウム)に浮かべて、ボールの芯が本当に真ん中にきているものだけを選ぶ、という強いこだわりの持ち主だ。

デビュー当時、これについて早速インタビューを申し込んだ私は、絵作りにもこだわりたいと、白衣とバスクリンを米ツアーに持ち込んで、彼に白衣を着用させてまるで科学者が実験するように、塩水テスト風景を撮影したことがある。こんなお願いをされるのも初めてだったようで、「え〜!? マジでやんの?」という感じで笑われたが、しっかり真面目に取材に協力してくれた。それ以来、彼は必ず現場で会うと、挨拶してくれる律儀な男である。

時々短気な一面も見せる、気分屋の彼だが、ファンサービスにも熱心で、ルックスもよい世界でも珍しい理系プロゴルファー。今後のさらなる活躍に期待がかかる(どうでもいい話だが、個人的にはハンチングよりも普通のキャップ姿の方が好きだ)。

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