タイガー・ウッズの真の怖さを今の若手が思い知る時
タイガー・ウッズが、今週末に行われるフェデックスカップ最終戦「ツアー選手権」に5年ぶりに出場する。ツアーのトップ30人しか出場できない、超エリートの大会で、今年はジョーダン・スピースが惜しくも31位で出場を逃した。それくらい狭き門の最終戦に、よくぞタイガー、出場できるまで復活したものである。
昨年の今頃は、腰の手術後のリハビリに励み、少しずつショートゲームの練習を開始していた程度で、試合に出場できる状態ではなかった。昨年の12月に行われたヒーロー・ワールドチャレンジでようやく「慣らし運転」のように公に姿を現したが、その直前の世界ランクは、なんと1199位である。
だが、今年に入ってからの大躍進は凄まじいものがあった。全英オープン6位タイ、全米プロ2位などトップ10が合計7回もあり、予選落ちは18試合中たったの2回。
現在、世界ランクは21位まで急浮上しているが、もし今週のツアー選手権に優勝することができれば、約5年ぶりに再びトップ10以内に返り咲くことができるかもしれない。当然、メジャーだけでなく、WGCイベントにも全て出場できるし、来年の1月は、ロリー・マキロイ同様、セントリー・トーナメント・オブ・チャンピオンズから久しぶりに出場するようなこともあるだろう。
だが、こんなドラマチックな復活劇をタイガー自身が最もビックリしている。
「今年の1月には、今年がどんなスケジュールになるのか、何試合出られるのか、あるいは本当に試合に出られるのか? など、いろいろなことが未知数だった。スウィングも出来上がっておらず、スウィングスピードも出ていなかった。ここ2年間くらいまともにプレーしていなかったんだからね。だからこうして優勝争いができるレベルにまで戻れて、今年は今までで最高の年の一つだと言える」
今年で43歳になる彼だが、当然体にも老いは生じている。
「体も変わってきているから、下半身の使い方なども昔と違う。クラブも今年はいろいろと試しているから、予測がつきにくい。でも過去の何かを頼りにしているとしたら、それは“手”だ。ボクは手を最も信用している。手がすべてであり、体はそれについてくる。いろんなことを手でやっているでしょう? 若い頃とは違う体でゴルフのスウィングを行なっているけど、最後はやっぱり“手”なんだ」
今から3年前のファーマーズインシュランスオープンで、私は信じられない光景を目にしたが、これなどはタイガーのいう「手」の感覚がイメージとは異なる動きをしていた例だろう。練習日の朝のドライビングレンジで、タイガーがアプローチでシャンクを連発。まるで100切りができないアマチュアのショットのようだった。そこで、見るに見かねて近くにいたビリー・ホーシェルはタイガーにアプローチレッスンを始めた。「タイガー、昔はこうやって打っていただろう?」
だが、今はもうこのようなミスは一切ない。相変わらずあるとすれば、ティショットがよく曲がることだ。これは世界ランク1位のバリバリの頃からよくある話で、2打目を深いラフや林からスーパーショットでグリーンに乗せる、というパターンでギャラリーたちを沸かせてきた。
そして先月の全米プロでも、昔懐かしい同じような光景を何度も目にし、「やっぱりどんなに強い若手が出てきても、結局は皆、タイガーの優勝やスーパーショットが見たいんだな」と思ったものだ。ここ数年のタイガー不在のメジャーは、ギャラリーの声援も少なく、物足りなさを感じていたが、いざタイガーが出てくるとここまで皆のテンションが上がってくるものなのだ。
私自身も、タイガーが連続バーディなどを取ってギャラリーが沸いているのを聞くと、ついつい足がタイガーの組に向いてしまう。お陰様で疲労困憊の中、何ホールも一緒に歩く元気を与えてもらった。優勝こそできなかったが、タイガー復活は本物だ。
昔、アダム・スコットがこんなことを言っていた。「ボクたちは昔、タイガーの影の中でプレーしていたようなものだった。強さは圧倒的で、彼を差し置いてメジャーに勝つことなど、到底難しかった。でもこの話をマーティン・カイマー(編注:世界ランク1位にもなったドイツのプレーヤー。1984年生まれ)にしても、彼はあまり理解できなかった。タイガーがどれほど強く恐ろしい存在だったか、今の若手は知らないんだよ」
たった9カ月で世界ランク1178人越えを成し遂げたタイガーなら、世界ランク1位に返り咲くことなど容易いのかもしれない。その時アダムの言う「真のタイガーの怖さ」を若手たちは思い知るに違いない。まずは今週末のツアー選手権でのタイガーの活躍が楽しみである。