タイガーが止まっていた勝利の時計を動かした。PGAツアー最終戦ツアー選手権、これ以上ない舞台で初日から首位を守りきっての完全優勝。我らがヒーローが1876日ぶりにツアー通算80勝の壁をクリアした。

「ここまでくるのはとてもタフな戦いだった。苦しんでもがいてまさかこうしてツアー選手権で優勝できるとは」

表彰式のインタビューで言葉をつまらせ瞳を潤ませたタイガー。ここ数年の苦悩は本人にしかわからない。だが想像するに常人では乗り越えられなかったレベルの苦しみを味わい葛藤を抱き続けてきた
はずだ。

画像: 主役はやはりこの男をおいて他にいない。ゴルフ界がそう確信した2018年、タイガーは自らの優勝で有終の美を飾った(写真は2018年の全米プロ 撮影/姉崎正)

主役はやはりこの男をおいて他にいない。ゴルフ界がそう確信した2018年、タイガーは自らの優勝で有終の美を飾った(写真は2018年の全米プロ 撮影/姉崎正)

スキャンダルもあった。4度の腰の手術もあった。逮捕もあった。42歳という年齢もある。それらをすべて乗り越え再び頂点に立ったことこそタイガーのタイガーたるゆえん。

一時は「ベッドから起き上がることさえできない」ほどの腰痛に見舞われ競技はもとよりゴルフを諦めかけたこともある。ただただ「普通の生活に戻りたい」と願い続けた。

だが幸いフュージョン手術の成功によって「痛みのない人生」を取り戻したタイガーは不死鳥のように蘇った。

ゴルフ界には2つの世界がある。「タイガーのいる世界」と「タイガーのいない世界」だ。

全盛期を過ぎたころから“キッズ”と呼ばれる若手が台頭し、ジョーダン・スピース、ジャスティン・トーマス、松山英樹ら次々と20代のスターが誕生した。

「これでゴルフ界も安泰」という雰囲気が漂ったこともある。だがファンたちの心の片隅に一抹の物足りなさがあったことは、今年タイガーが競技に復帰してから顕著になった。

ギャラリー数は増え視聴率も上がり、来年のメジャーのチケットの売り上げが急増するなど、いかにゴルフ界がタイガーの復活を待望していたかを物語るできごとが次々と巻き起こった。

その期待に応えタイガーは全英オープンで6位、全米プロで2位に入るなどいつ勝ってもおかしくない状況をつくっていく。そして迎えた最終戦。フェデックスカップの年間王者は僅差でジャスティン・ローズに譲ったが、もしローズが1打落としていたらタイガーの優勝&年間王者をダブルで獲得する可能性すらあった。

なによりギャラリーの盛り上がりは驚異的だった。18番のフェアウェイには警備員の制止を振り切ったギャラリーがなだれ込み「U.S.A」「U.S.A」の大合唱。普段ギャラリーはロープの外で秩序正しく観戦する印象があるゴルフだが、常識を覆すようなお祭り騒ぎに相成った。

その先頭を闊歩する褐色の肌の孤高の王者。これこそ皆が待ち望んでいた「タイガーのいる世界」なのだ。

トーマス、リッキー・ファウラー、ビリー・ホーシェルら“キッズ”たちの祝福を受け千両役者が還ってきた。

ゴルフ界はタイガーがいることで“コンプリート”する。

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