みんなのゴルフダイジェスト編集部(以下、編集部):先週はマレーシアでCIMBクラシック、今週は韓国で松山英樹選手が出場するCJカップと、2週続けてPGAツアーのイベントがアジアで開催されます。その翌週にはWGC HSBC選手権も控えていて、秋はアジアのゴルフが盛り上がる季節という感じがあります。このあたりの狙いはどこにあるのでしょうか。
石井政士支社長(以下、石井):PGAツアーはアジアを非常に重要視しています。日本にはJGTO(日本ゴルフツアー機構)、アジアにはアジアンツアーがあり、中国にはPGAツアーチャイナがありますが、PGAツアーの狙いはローカルの試合との競合ではなく、現地のゴルフマーケットの活性化にあるんです。
編集部:2016年のPGAツアー日本支社の設立記者会見では、アメリカと世界選抜の対抗戦であるプレジテンツカップや、PGAツアーイベントの日本開催を目指すという話をされていました。
石井:そうですね、プレジテンツカップ、ワールドカップ(国別対抗戦)、レギュラー大会を含めて、日本でもゆくゆくはなんらかの試合をやりたいと一貫して思っています。プレジテンツカップは2021年まで開催地が決まっていますから、早くても2023年ですね。もちろんまだまったくの未定ですが……。いずれにせよ、なんらかの形で日本で試合を行うとなった際にはPGAツアーのブランドを上手く使って、日本のゴルフ界を発展させ、拡大していくことが大事だと思っています。
編集部:現地のゴルフ界の活性化とは、具体的にどのようなことを行うのでしょうか?
石井:いくつかあると思いますが、すでに行ったところでいえば選手の価値を高めるお手伝いをしています。JGTOとは、昨年11月にはアグリーメント(契約)を11月に交わし、年末に行われた選手総会の日に、2018年シーズンのシード選手全員、そしてQT(予選会)を上位で通過して新しくメンバーになる選手たちを対象に、PGAツアーの選手担当を呼んで、講義を2回に分けて実施しました。
我々がアメリカでPGAツアーの全選手に行なっている講義と同じものです。
編集部:どのような内容の講義でしょうか?
石井:ファンに対するおもてなしの仕方、メディアやスポンサーに対する向き合い方と言った内容がメインです。ファンやスポンサーにどのような態度で接すればいいのか。そして、メディアにインタビューされ、テレビに映ること、雑誌の記事に出ることがどれだけあなたの価値を高めるか。それを把握して、適切な受け答えをすれば、一言一句があなたの価値を高める、素晴らしいチャンスになる。テレビのカメラ、雑誌の記者の向こうには国民がいるんだよ、といった内容ですね。
プロゴルファーは個人事業主ですよね。だから、賞金を稼ぐためにたくさん練習をする。それは企業でいうと商品の研究・開発の部分です。しかし、実際の企業は研究開発部門だけでなく、ファイナンス(財務)があり、リーガル(法務)がありと様々な部門がある。研究開発以外の部分で、自分の価値を高められるということをお伝えしました。もちろん、「もしよかったら、参考にしてください」ということです。
編集部:なるほど、では一方で、JGTOと組むことでPGAツアーとしてはどのようなメリットがあるのでしょう?
石井:これから日本で試合をやるということになったら、JGTOにも協力をしていただくことは大いに考えられます。たとえば韓国で開催中のCJカップは78名のフィールド(出場枠)ですが、韓国ローカルの選手も何名か、スポンサー推薦で出場しています。
編集部:なるほど、それでその選手が活躍すれば、それは活性化につながりそうです。PGAツアーの日本進出がきっかけとなり、国内男子ツアーに新風が吹くというか、グローバル基準での改革が進むのは、ゴルフファンにとっていいニュースなように思えます。
石井:JGTOとアグリーメントを交わしてから僕らも国内ツアーに関して改めて勉強しました。男子ツアーだけでなく、女子ツアーも含めて。PGAツアーももちろんそうだったのですが、日本ツアーもここに至るまで、テレビや新聞、スポンサーに支えられて発展してきた歴史があります。ですから、
一朝一夕に変わるということはないと思います。PGAツアーの場合、トーナメント運営チームも、テレビの放送権販売チームも、広告代理店機能もすべてがインハウス(社内にある)なんです。だから広告代理店にお願いすることもありません。PGAツアーも昔からそうだったわけではなく、長い年月をかけて今の体制になっているんです。
編集部:たとえばインターネットやSNSの活用などが、PGAツアーはすごく上手いと思います。試合を見逃しても、ネットをチェックすれば動画ハイライトがアーカイブされていたり……。
石井:たとえば(動画配信大手の)ネットフリックスはOTT(オーバー・ザ・トップ)、つまりインターネット上のコンテンツがPCだけでなく、テレビでも、スマホでも観られるのが魅力ですよね。スマホを使えば通勤電車の中でも観られる。PGAツアーの場合、日本だと時差の関係で最終日の優勝争いの一番いいところが朝の通勤時間帯なんです。スポーツは鮮度が命ですから、ライブで観られないと価値が減少していってしまいます。
放送権に関しては、アメリカ以外のすべての国のコンテンツをディスカバリー(ディスカバリーチャンネルを運営)に向こう12年間、約2200億円で販売しています。ですので、ディスカバリー自体がどうしていきたいかにも関わりますし、今現在放送をしてくれているNHKさん、ゴルフネットワークさんとも足並みを揃えながらではありますが、コンテンツ配信もより良くしていくことで、日本におけるPGAツアーのブランドを高めていきたい、ファンを増やしていきたいと思っています。
編集部:いつでもどこでもライブで観られる環境ということですね。しかし、10年間と長期とはいえ放送権の総額が2200億円。2019年シーズンからはフェデックスカップ年間王者のボーナスが1000万ドル(約11億円)から1500万ドルになったり、レギュラーシーズンのポイントランク1位にも200万ドルが贈られることになりました。ちょっと規模が桁外れです。どうしてここまで発展できたのでしょう?
石井:選手の価値が上がっているのが一番ではないでしょうか。そうでなければ、スポンサーからの投資も行われませんし、ファンもお金を払って来てはくれません。それと、PGAツアーはNPO団体なので、どれくらい寄付できるかが重要なんです。アメリカの四大スポーツ(野球、バスケットボール、アメフト、アイスホッケー)がトータルでドネーション(寄付)した金額よりも、PGAツアーのほうが金額が大きいんです。2017年は180ミリオン(約198億円)、過去の累計では2.65ビリオン(約2915億円)を寄付していますから。
フェデックスやウィンダムといったタイトルスポンサーからのスポンサー料や放送権が主な収入になります。選手に高い賞金を提供することができるのは、コンテンツとしての価値もありますが、それを支えて頂けるスポンサーとファンの皆様がいらっしゃるからだと思います。
編集部:ネットで観られる映画や動画よりも、ゴルフのプロツアーがコンテンツとして面白ければ、
そこに人もお金も集まるということですね。今日はありがとうございました。