気迫を前面に押し出したプレーで、今年の男子ツアー屈指の名勝負の主役となった木下裕太。彼のプロフィールをみると、ゴルフ歴は8歳からと記されている。小学校2年生の木下少年がゴルフを始めたきっかけ、それは池田勇太、市原弘大を輩出した、千葉県北谷津ゴルフガーデンのジュニアプログラムだった。関係者に取材した。

多くのプロを育んだ“ゴルフの揺りかご”が千葉にある

まず話を聞いたのは、北谷津ゴルフガーデン社長の土屋大陸。土屋は、木下が北谷津で腕を磨いた日がまるで昨日のことかのように振り返りながら、こう言う。

「ジュニアプログラムを始めた26年前のその頃に小学二年生で入って来ました。元気がよくてやんちゃでね。お父さんが元気がいいからなにかやらせようってことで、ウチに連れてきたんです。その頃、池田勇太や市原弘大がウチにはいて、彼らに可愛がられていい目標になったんだと思いますよ」(土屋)

4歳年上の市原、ひとつ年上の池田といった、“上手いお兄さん”を間近に見つつ、やんちゃと言われるほどの元気の持ち主だった木下少年は、ゴルフにのめり込んでいった。「夢中になって練習して、とくにアプローチは断トツに上手かったですよ。当時は、それこそ池田勇太と比べても一枚上手なくらい」というから、その才能は疑う余地がない。

画像: 念願のツアー初優勝を掴んだ木下裕太(写真は2018年のマイナビABCチャンピオンシップ)

念願のツアー初優勝を掴んだ木下裕太(写真は2018年のマイナビABCチャンピオンシップ)

ただ、プロ入り後はなかなか結果が出せなかった。2007年にツアープレーヤーへと転向した木下だが、ここまでの通算獲得賞金は約6100万円。そのうち、2018年に稼いだ額が約5000万円だ。「ここのところQTで失敗したり苦労したと思いますが、そういうことを乗り越えて精神的にも強くなって今回の結果につながったんだと思いますね」と前出・土屋は言う。そして、今回の初優勝の背景には、北谷津の先輩・市原弘大の初優勝の影響もあるのではと指摘する。

6月のツアー選手権で36歳にして初めての勝利をつかんだ市原は、木下に対し「こんなに早く勝つとは思いませんでした」と語る。実は市原は、優勝した「日本ゴルフツアー選手権 森ビルカップ」の最終日を、木下と同組でプレーしている。

首位と5打差からスタートした二人だったが、5つスコアを伸ばして勝利を手にした市原とは対照的に、木下は7打スコアを落とし、30位タイでフィニッシュ。「そのときに少し(プレーの)ペースが早くなったりしてたなと感じたので、ちょっと話をしたこともあります」と市原。優勝争いのプレッシャーの中でプレーを乱したのだというが、そういった経験があればこその、木下の今回のプレーだったということだろう。

画像: 平均289.72ヤードと飛ばし屋ではないが、正確なショットが光った(写真は2018年のマイナビABCチャンピオンシップ)

平均289.72ヤードと飛ばし屋ではないが、正確なショットが光った(写真は2018年のマイナビABCチャンピオンシップ)

「最近は(ISPS HANDA)マッチプレーでもいいゴルフをしてましたね。いいゴルフをしても勝てないこともあります、でも今回は勝ててよかった。いいゴルフとは、あそこでああしておけばよかったとか思わない、後悔のないゴルフだと思います。そういうゴルフができるようになってくると自然と成績につながると思います」

ベスト8まで進んだマッチプレー選手権で、木下の前に立ちふさがったのは、誰あろう池田勇太だった。木下の今季の躍進の背景に、少年時代に腕を競った先輩たちとの“同伴プレー”があるのは果たして偶然なのか、否か。

かつて石川遼もそのジュニアプログラムに参加した北谷津ゴルフガーデン。20余年の時を経て、また一人ツアー優勝者が誕生した。

撮影/姉崎正

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