「見た目に錯覚はあっても、計測数値に錯覚はない」
トーナメントを見ていると、選手たちのショットの質はもちろんのこと、縦の距離感の精度の高さに、プロの凄さを感じることが多い。
一般のアマチュアゴルファーだと、ナイスショットしたのに、グリーンを大きくショートしたり、オーバーしたりして、「エッ、どうして?」なんてことがよくある。
女子プロの場合、ここ数年でコースの距離も長くなり、グリーンを狙うときに、大きな番手で打つケースも多くなっているが、それでもきっちり距離を合わせてくるからさすがだ。状況に応じた的確な番手選びができる秘訣を、プロキャディの木村翔に聞いてみた。
「詳細なコースのヤーデージブックをもとに、練習ラウンドなどではレーザー距離計を使って、正確な情報を収集します。距離計の数値は精度が高いですからね。ホールの景観によっては、実測の距離よりも近く見えたり、遠く見えたりして、選手が迷うこともあります。そんなときは『計測した距離は絶対だから、その距離をきっちり打てるクラブでいこう』とアドバイスします。見た目には錯覚がありますけど、計測した数値に錯覚はありませんからね」(木村、以下同)
もちろん、自分の番手ごとのキャリーの距離、そこからどのくらい転がって止まるかを把握しているから、正確な数値さえ分かれば、プロはピタリと距離を合わせてくる。とはいえ、キャディのアドバイスを素直に聞き入れてくれる選手もいれば、あくまでも自分の感覚を重視したい選手もいる。
「そういう場合は選手の意見を尊重することも多いですね。選手が考えているのと違う番手を無理に持たせても、心に迷いがあるといいスウィングはできませんからね。そこはとても難しいところです。選手の感覚が正しいときもあるし、やっぱりという縦の距離のミスが出ることもあります。選手に言わずに後悔することもあるし、その逆もある。でも、そういう失敗を積み重ねながら、選手との信頼関係が構築されていくのだと思います」
ただ、基本的には実測の距離を信じて打ったほうが距離感は合いやすいが、ライの状況などによっては、見た目の感覚を重視するケースもあるとか。
「たとえば、残り100ヤードで左足下がりのライだと、インパクトでロフトが立って当たるし、弾道も低くなるので、普段どおりの100ヤードの感覚で打ってしまうとオーバーしやすいですよね。逆に、左足上がりは球が高く上がってショートしやすくなります。選手たちも過去の経験から、そういう感覚を持っているので、それに合わせて番手選びのアドバイスをします。これは一般のアマチュアの方にも参考になると思いますよ」