オートマチックなマレットタイプでの勝利はわずか2回
マスターズが開催されるオーガスタナショナルゴルフクラブといえば、起伏の激しい難グリーンが有名だ。決勝ラウンドになるとさらに堅く、高速化していくが、その止まりそうで止まらない異次元スピードを生み出しているのは、なんといっても強い傾斜である。オーガスタを制する者は、確実にその週で最も傾斜の読みと自らのタッチを融合させることに成功し、勝負どころのパットを沈め続けたプレーヤーだと思う。
過去、15年のマスターズ優勝者の使用ボールとパターを調べてみたが、当然ながらパター巧者、アプローチ巧者がズラリと並ぶ。使用されるパターもいわゆるアンサー(あるいはニューポート)タイプと呼ばれる、オーソドックスなブレードタイプがほとんどで、オートマチックに動くマレットタイプでグリーンジャケットを手にしたのは、2013年のアダム・スコット、2017年のセルヒオ・ガルシアくらいのものである。
2009年のアンヘル・カブレラが使用していたPING Shea Hはハーフマレットタイプだが、ヒールシャフトとなった、いわゆるLマレット。オートマチックではなく、自分でフェースの開閉を行う感覚派に人気があったモデルだ。
傾斜が強いオーガスタのグリーンでは、ほんのわずかなタッチの差が天国と地獄の分れ目となる。上りと下りでは、タッチそのものを変える必要もあるため、ある程度、マニュアル的に使えるパターが適しているのかもしれない。
モデルチェンジしても変えてはならない性能。それがグリーン周りのフィーリングとタッチ
もちろん、パッティングのタッチは、パターのヘッドタイプだけでは決まらない。ボールとの相性が非常に重要だ。
以前(2008年)、オデッセイパターの開発責任者にインタビューした時に、フェースインサートをモデルチェンジする理由について質問したことがあるが、その時の答えが印象的だったので、ここで紹介しておきたい。
Q.ボールの転がりをよくするためにインサートを変えたのですか?
A.「いえ、実は最新ボールのカバー素材が変わったのです。このため、従来のホワイトホットインサートではフィーリングやタッチが変わってしまうのです。そこで、最新ボールを使ってもいつもと同じフィーリング、タッチを生み出せるように、フェースインサートを変えていくことが必要だったのです。フィールをキープするためにインサートを変えたのです」(オデッセイ開発責任者 オースティ・ローリンソン氏 2008年取材)
我々はついゴルフクラブの進化とは性能をアップさせるために生み出されると思い込んでしまうが、性能キープのために考えられる進化・技術があるのだということを、このインタビューで学んだ。それだけツアープレーヤーにとって、ジュニア時代から染み込んだグリーン周りでのフィーリング、タッチは、変わってしまっては困る“スコアメイクの生命線”なのである。
過去15年のマスターズでは、タイトリストのプロV1・V1xが8勝とズバ抜けた優勝貢献度を誇っているが、タイトリストのボール開発チームに取材しても、実は同じことをいう。モデルチェンジしても絶対に変えてはいけないゴルフボールの基本性能として、フィーリングとタッチが必ず挙げられ、「だからこそゴルフボールの性能はグリーン周りから考える。寄せやすく、パッティングでタッチが出せるボールでなければ、ベストスコアは更新できない」と力説されるのだ。
プロV1・プロV1xは19年モデルが発売され、初めてイエローカラーも登場。色を変えたことでフィーリング、パッティングのタッチが変わることがないように数年間の研究・検証を経てようやく完成したのだというから、そのこだわりは半端ないのである。
マスターズは、選ばれし達人たちが集うゴルフの祭典である。ロングショットだけで制覇できる夢舞台ではないことを、居並ぶシブい歴代優勝者の顔ぶれが証明している。
いくらカップに近づこうとも、決してイージーパットにはならないのがオーガスタである。たとえ10センチでもタッチが合わなければ入らない。だから観ていて飽きないし、これまで幾多のドラマが生み出されてきたのだと思う。
ロングドライブだけでなく、気の抜けないショートゲーム、パットにもぜひ注目していただきたい、2019年のマスターズである。