しかもクラブが届かなかった
過去、マスターズ直前週に優勝し、ギリギリでオーガスタ行きの切符をゲットした選手は昨年のイアン・ポールターのように何人かいるだろうが、今年優勝したコーリー・コナーズほどドラマチックな一発逆転劇もそうそうないだろう。
バレロ・テキサスオープンに優勝したのは、カナダ人のコーリー・コナーズ。彼は2017~2018年のPGAツアールーキーイヤーにフェデックスカップで130位となり、おしくも125位以内のシード権獲得圏内からは漏れてしまったのだが、準シード選手としてPGAツアーには参戦し、サンダーソン・ファームズ選手権2位、ソニーオープン・イン・ハワイ3位タイなど、上位に行くこともたまにはあった。
ただ、13試合中8試合で予選落ちと浮き沈みの激しいタイプで、まるで今回の最終日のスコアのような戦歴だ。PGAツアーの試合に出場するためには、時々月曜日の予選会にも出場しなければならず、ここまではなかなか自分のリズムでプレーすることが難しかったようである。
もともと今回優勝したテキサスオープンの出場権も持っていなかったのだが、月曜日の予選会に出場し、6人のプレーオフを制して勝ち抜き、たった一つのスポットを勝ち取ったプレーヤーだった。しかも、彼のクラブは飛行機に乗っておらず、練習もできない始末。
そんなドタバタ劇の中スタートしたテキサスでの1週間だったが、それでも大会が始まると連日60台を叩き出し、3日目を終えて首位のキム・シウーに1打差の2位に。最終日は、フロント9の最初の5ホールで4バーディを奪取し、一時は4打差の首位に立っていたものの、6番から4連続ボギーで大失速。
9番から10番までの長いインターバルでは選手達はカートで移動していたが、昨年結婚したばかりの妻マロリーが夫の失速ぶりを見て、カートに座り一言。「あなたならできるわよ! アグレッシブにプレーして、自分を信じて!」......この言葉が奇跡のビクトリーロードへのスイッチとなり、後半を6バーディ、ノーボギーでホールアウト。12番で約10メートルのロングパットを沈めた時、「僕は今日、こういうことができる日なんだ。アクセルを踏み続けなくちゃ」と思ったという。
ジェットコースターのようなアップダウンの激しいラウンドだったが、66の好スコアでホールアウトし、チャーリー・ホフマンに2打差をつけて優勝。トータル20アンダーは、トーナメントレコードにもなった。バック9で妻のマロリーが、時折夫が見せるスーパーショット、ミラクルパットに歓喜するシーンがテレビにも映し出されていたが、「彼女がすごく感情的になって応援してくれていたのは知ってたよ。それを見てプレーできてよかった」とコナーズ。
優勝が決まった瞬間、マロリーは途中までは恐る恐る、しかしその後はダッシュで夫の元に駆け寄り、ジャンピングハグ。「これは現実のことなの?」「そうだよ、現実だ。僕たちはやったんだ!」
こうしてPGAツアーで劇的な初優勝を飾り、マスターズ行きの最後の1枚のチケットを手に入れ、月曜日にオーガスタへ。彼は大学時代、数学を専攻しており、数字には強いそうだが、この逆転劇まではまさか予想もつかなかったに違いない。
月曜日の予選会勝ち抜き選手がPGAツアーに優勝したのは、2010年にウィンダム選手権で優勝したアージュン・アトワル以来、9年ぶりの快挙。マスターズ出場権だけでなく、5月の全米プロや6月のメモリアルトーナメントなど、ランキング上位者でないと出られない試合も出場可能に。
優勝者のみが参戦できるセントリー・トーナメント・オブ・チャンピオンズや、アーノルド・パーマー招待、プレーヤーズ選手権などのビッグイベントへの出場権も獲得。そしてなによりも彼にとっては2020年までのシード権が確保できたのが何よりも嬉しいことだろう。
「もう月曜日にプレッシャーを感じなくていいんだ、と思うとすごく嬉しいよ」
そう、今後はわずかな出場枠をゲットするために神経をすり減らしていた月曜日の予選会のことを一切考えず、自分のリズムで出場する試合を選ぶことができ、日曜日の優勝争いに集中できるのだ。これほど人生が激変する選手も、プロゴルファー多しといえどなかなかいない。プロゴルファーとしての大きな可能性が、切り開かれたのだ。まずは彼の劇的ラックがマスターズでもまだ通用するかどうか、注目したいところだ。