マスターズ開催コース、オーガスタナショナルGCといえば、巨大でかつ傾斜のきつい「ガラスのグリーン」が有名。グリーンを攻略しなくては優勝はあり得ない。当然、各選手パットの練習に熱が入るわけだが、デシャンボーも“さすが”の対策をしていた。現地で取材を続けるゴルフスイングコンサルタント・吉田洋一郎は言う。
「足元に何かを置いて練習しているので、アライメント(方向どり)をチェックしているのかなと思ったのですが、よく見ると定規なんです。ロングパットを打つ際に、どれだけ振り上げるか、その振り幅を測っていました。もちろん、そんなことをしている選手は他にいません(笑)」(吉田)
写真Aを見ると、パターのトップの瞬間に見えるが、実はデシャンボーはこの位置でパターを止めている。止めた状態でコーチが振り幅を計測し、距離感を数値に置き換えていくのだ。
「バックスウィングの幅に、ボールが打ち出し直後にスキップする幅なども、コーチのステファン・ハリソンが測っていましたね。明らかに異質な雰囲気なので、パトロン(ギャラリー)たちも『サイエンスパワー!』なんて言って、野次を飛ばしていました」(同)
吉田によれば、練習場では後方にフライトスコープ、正面にGCクワッドという測定器を2台設置して1球1球データを取り、測定の誤差が出ないよう、打つたびにこれまた1球1球腰にひもでつけたブラシでフェース面を掃除する姿が見られたとか。
マスターズ前日の水曜日、“科学者”の勝利のための実験、ならぬ練習は、他の選手がとうに引き上げたのち、コース整備のスタッフを待たせてまで続けられたという。
マッドサイエンティスト・デシャンボー。なにかやってくれそうな雰囲気を秘めている。