名手のパターが、すなわち“みんなの名器”であるわけではない。
タイガー・ウッズの14年ぶり5度目の優勝で幕を閉じた2019年のマスターズトーナメント。月曜日以来、洪水のようにタイガー関連情報が流れてくる。その中でやはり気になってしまうのが、ウッズの使用ギアについての情報である。
今回のマスターズで、観戦していても安心感が持てたのはパッティングである。改めて大会のパッティングデータを見てみたところ、他の選手に比べて際立って安定していたわけではなかったが、勝負どころできっちり決めてみせるその姿に大いなる期待と安心感を感じたのは私だけではなかったと思う。少なくとも、昨年の数試合のようにコロコロと違うパターを使っていたウッズとは、明らかにボールを見つめる目が違っていた。
さて、ウッズは今回でメジャー15勝となったわけだが、そのうち14回を今大会と同じ、タイトリストニューポート2GSSプロトで勝っている。このパター以外で優勝したのは、メジャー1勝目となった97年マスターズだけである。ちなみにこの時はカッパー系のトレリウムインサートが入った、スコッティ・キャメロントライレイヤード ニューポート2だった。
三つ子の魂百までといわれるが、ウッズはアマチュア時代からPINGのアンサー2ステンレス(PAT.PEND)を使用しており、プロ入り後に選んだキャメロンパターも、そのアンサー2をモデファイしたニューポート2とヘッドの好みは終始一貫している。実際は、毎年のようにバックアップ(スペア)パターが渡されているようだが、試合で使うのはただの1本。使い込まれ、アタリ傷が無数についてしまっているが、1本のエースパターからゴルフ史に残る多くの名シーンが生み出されてきたわけである。
メジャーを数多く制したパターといえば、ジャック・ニクラウスのジョージ・ロー ウィザード600(スポーツマン社)が有名だが、ニクラウスはメジャー18勝のうち16勝をこのパターで挙げているといわれている。このため、ジョージ・ロー ウィザード600は、現在でも相場が維持されている唯一のクラシッククラブである。
我々アマチュアゴルファーは、名手が使い、多くのメジャーを制すれば、すなわち“名器”だと騒ぎ、同じものを入手したくなってしまうが、実は“名器”と称されるパターのほとんどは、一人のスーパープレーヤーが長く使っていただけで、幅広く人気があったモデルとはいえないモデルだ。日本でも尾崎将司がIMG5(マグレガー社)を長く使い、多くの勝利を獲得したため、名器とされて高値で取引されていた時代があったが、このパターもジャンボ以外に使用者の名を挙げるのはなかなか困難だ。
タイガー・ウッズがスペアパターすら使わないように、名プレーヤーとエースパターは、常に1人と1本の間柄だ。同じモデルならいいわけではないし、まして名手のエースパターが、違うプレーヤーのエースになれるかといえばそんな保証はどこにもない。
学ぶべきことは、歴史に名を刻む名手たち、それも一時代を創った本当の名プレーヤーは共通して、同じパターをそのゴールデンタイムに使い続けたということなのだ。誰かのエースを真似るのではなく、自分の感覚でパターを選び、それを数十年にわたり「使い続けた」ことである。
ほぼ四半世紀、同じ4wを使っている手嶋多一。
先週、日本のシニアツアーでも同じ道具を使い続けるプレーヤーが優勝を飾った。金秀シニア 沖縄オープンゴルフトーナメントでシニアデビューとなった、手嶋多一である。
手嶋といえば同じフェアウェイウッド(3w、4w)を使い続けていることで有名。とくに4Wの「ミズノ ワールドマスターチタンWM-III」は、23年以上も使い続け、今やメーカーストックはもちろん、中古市場でも入手困難になっているレトロなモデルだ。しかも、シャフトはNS 950FW! つまり、スチールシャフトだ。昨年夏にミズノプロのニューモデルにようやくチェンジしたはずだったが、今年はすっかり元サヤに戻ってしまったようだ。この辺りは、さすが、である。
もちろん、ここでも最新よりも古いモデルの方がいいなんてことを言いたいわけではない。誰がなんと言おうと、自分が信じたクラブを使い続ける、その姿勢に学ぶべきものがあるのではないか。それだけを書きたいのである。
使い続ける。それは道具に“慣れる”ということでもあるだろう。2、3球打って決めたエースではないのだ。何万球打って築き上げた、余人には絶対わからない、使い手と道具の信頼関係がそこにはある。
道具を使い熟す(こなす)ことに憧れる。もう少し時間をかけて、ゴルフ道具と付き合ってみたい。そう考えさせられたベテランたちの活躍である。