現在フェデックスカップランキングで現在トップに立っているのは、先の「RBCヘリテージ」で惜しくも単独2位に入ったマット・クーチャー。今季は「マヤコバゴルフクラシック」と「ソニーオープン・イン・ハワイ」で2勝しており、その他「WGCデル・テクノロジーマッチプレー」と「RBCヘリテージ」では2位に入るなど、絶好調だ。
フェデックスカップランキング2位のザンダー・シャウフェレとは約500ポイント差。いつもニコニコの「ツアー屈指のナイスガイ」が、40代を迎えて、ますます強く、安定した成績を残している。
しかしそんなゴルフの調子とは裏腹に、今年は彼にとって試練の年とも言える状況に立たされていた。
昨年の「マヤコバクラシック」で4年ぶりに優勝したとき、起用したハウスキャディのデビッド・オルティスに、クーチャーは5000ドル(約55万2500円)を支払ったが、優勝賞金129万6000ドル(約1億4000万円)に対して、5000ドルは安すぎるとして報酬に対する不服を申し立てられたことがあった。クーチャーはオルティスと事前に金額について話し合ったといい、その取り決めによって5000ドルを支払ったと説明したが、そのあとに語ったコメントが、彼の立場をさらに悪くしたのだ。
「(普段)1日200ドルを稼ぐ人にしてみたら、1週間で5000ドル儲けたんだからすごいじゃないか」
この発言がゴルフファンの間で反感を買い、急遽ジェネシスオープン開催中にPGAツアーの公式ホームページでクーチャーは謝罪をした。そしてオルティスに対しては電話で謝罪し、要求額の5万ドルを支払ったという。
さらに「マヤコバクラシック」に対しても、ネガティブなイメージを与えたくないとし、大会側に募金をする旨を伝えたのだった。
クーチャーにしてみたら、昨年久しぶりに優勝して大喜びしていた試合での出来事が、こんな形で自分の身に降りかかってくるとは思わなかっただろう。後日要求した金額を支払い、大会側に対しても寄付をすることでなんとか彼の謝罪をゴルフファンたちにわかってもらおうとしたが、謝罪文を出した後も、ヤジが飛ぶようなこともあったようだ。
「クーチ」が彼の愛称で「クーーーーチ」、とギャラリーからは声がかかるが、これがブーイングを表す「ブーーーー」に聞こえることも、実際現場で耳にしている。クーチャーの「クーーーチ」、ルーク・ドナルドの「ルーーーク」はブーイングに聞こえるかもしれないが、これらはブーイングではなく、選手たちの愛称であり、応援されている証しである。
「今までの長いゴルフキャリアにおいて、幸い特に何も邪魔になるようなことはなかった。全てがうまく運んでいたんだよ。だからあれはキツかったね。でも幸い、友達や僕のサポートチームのみんながいたから、この状況から抜け出すことができ、こうしてまたツアーに出てきて、いい面を見せられるようにしてくれたのがありがたい」
ツアーでも1、2を争うナイスガイであり、良き父、良き夫でもあるクーチャー。人間誰もが過ちを犯すことはあるが、すぐさま謝罪をしたことで、最近では徐々に反感もおさまってきたようだ。しかし彼は、自分でも語っているように「長い間、敬意とポジティブさを表そうとしてきた」が、“いい人”が1回悪い印象のレッテルを貼られてしまうと、なかなか元に戻るのは難しいものである。今年はフェデックスカップの優勝を争いながら、ファンたちのクーチャーへの信頼も取り戻す1年になりそうだ。