「プレーファストの観点から、できるだけだけピンを抜かないようにお願いしております」
2019年のルール改正からはや4カ月が過ぎ、各ゴルフ場でもピンを差したままパッティングするゴルファーが増えつつある。今回はそのあたりの事情を紹介したい。
キャディ付きプレーの場合、「仕事が減りましたねー(笑)」と嘆いているキャディさんも少なくない。ピンを抜いてプレーしたい人がいれば、キャディさんがその都度、抜いたり差したりしているようだが、それはごく少数派だという。
先日、プレーした千葉のゴルフ場は、アスリートゴルファーからの評価が高い難コースだが、キャディさんから「プレーファストの観点から、できるだけピンを抜かないようにお願いしております」と説明を受けた。強風が吹くことも多いコースだが、ほとんどのゴルファーがピンを差したままプレーしているようだ。
先だって、ルールが変わってから、はじめての全日本ゴルファーズ選手権地区予選(旧パブリック選手権)に参加してみたが、同組のプレーヤーはみんなピンを抜かずにプレーした。「気持ち悪く感じるときなど、たまに抜くときもある」という人もいたのだが、結果的には競技中、ピンは一度も抜かれなかった。競技ゴルファーは新ルールへの関心が高く、その分、適応も早いのかもしれない。
前後の組も見たかぎり、ピンを差したままの組が多かったが、時折抜いていることもあった。その時だけ、ピンを抜くケースの理由としては、旗竿が傾いていてカップが狭く見える場合、風で旗竿がはためいて揺れて見える場合などが多いようだ。
筆者がホームコースの月例競技に参加した際、ピンを抜いてプレーするという人が同組に2人いた。そんなとき気になるのが、その人のためにピンを抜いてあげたほうがいいのかということだ。プレーヤーのリズムもあって、声がけのタイミングは案外難しいし、他のプレーヤーとの兼ね合いもあって、抜いていいのかどうか迷うことも多い。
その日の筆者は自分がホールアウトしていたら、抜いてあったピンを持つこともあったが、それ以外の関与はしなかった。ピンを抜いてプレーする派の人は、当初はご自身で抜いてからパッティングをしていたが、そのうち面倒になったのか、2人ともピンを抜かないままプレーするようになった。ラウンドにはリズムがあるので、このケースのようにその場の流れに合わせてしまう事もあるだろう。
ピンを差したパッティングの方が有利だという話はこれまでいろんな形で出てきた。代表的なものは、1.強いタッチでも入る、2. 下りのパットで止まる可能性がある、3. 目標物があるのでタッチが出しやすいなどだろうか。実際にプレーファースト以外のメリットを感じたゴルファーが多かったことも、数カ月でスムーズに普及している要因だろう。
一方、ピンを抜きたい派から聞いたデメリットとして多く聞かれたのが、タッチが強く出てしまうということだった。「カップに入れる」というイメージから、「ピンに当てる」というイメージになりがちで、思ったより強くヒットしてしまうという。
「ピンに弾かれた」という声も少なくない。とくに傾斜がかかると弾かれるケースもあるようだ。ちなみに筆者はピン差しで20ラウンド近くプレーしているが、弾かれたことは一度もない。
また、ピンが傾いている、入口が狭く見えるという声もあった。カップの切り方が鉛直ではなく、傾斜に沿うように切っていると、当然、ピンは傾きやすくなる。実際には、旗竿が下を向いている分、ボールが穴に向かって落とされる事も多いのだが、見た目のイメージは悪く感じるゴルファーも存在するだろう。
先週のパナソニックレディースオープンでは、パッティングの名手、鈴木愛が旗竿を差してプレーしているのが話題になった。鈴木は「コロンとカップへ入るイメージより、ピンにガチャーンと当たって入るイメージが私には合う」とコメントしている。ツアー屈指のパット名人だけに、追随するプロも増えてくるかもしれない。
鈴木がコメントしているように、ポイントは「イメージが変わる」ということだろう。アダム・スコットがシーズン初頭からピン差しでプレーしていることが話題になっているが、それは有利、不利という問題とは別に、今までのパッティングのイメージを変えたいという意図の表れではないだろうか。イップスの原因は、過去の失敗体験が引き金になることが多いという。少しでも今までと違うイメージが持てれば、それはプラスに働く可能性がある。
ここ数カ月の風潮を見ると、ピンを差したままプレーするのがこのままスタンダードになり、ピンを抜いてプレーする人は少なくなるだろう。アマチュアの場合は、選手1人に1キャディのツアープロとは事情が違ってくる。闇雲にピン差しを奨励する意図はないが、多くのゴルファーにルール変更によるイメージの変化を前向きにとらえてほしいと思う。