2017年8月の「WGC ブリヂストン・インビテーショナル」でのPGAツアー5勝目以降、優勝から遠ざかっている松山英樹。同年6月には世界ランキングも2位に浮上したが、現在は30位(全米プロ直前の時点)まで後退。
今季も1月の「ファーマーズ・インシュランス・オープン」の3位タイがベストフィニッシュで、今季メジャー初戦の「マスターズ」も32位タイと優勝争いに顔を出すには至らなかった。スランプとまではいえないが、彼の復調、そして悲願の世界メジャー制覇を願う、日本のゴルフファンは多いだろう。
ここ最近の松山のスウィングを見て、プロコーチの内藤雄士は言う。
「彼の最大の武器は、世界一級品のアイアンショットです。PGAツアー、そしてメジャーの厳しいセッティングで、ロングアイアンでもボールを止められる技術を持っています。
現在の世界の主流は、ダスティン・ジョンソンなどに代表されるように、ストロンググリップでフェースをシャットに使い、体の回転で振っていくスウィングです。これは進化したドライバーとボールにアジャストした、言い換えるなら“ドライバー型スウィング”といえます。
一方、松山はスクェアかウィークに近いグリップで、オープンフェースにボールをとらえ、自在にスピンをコントロールする、“アイアン型スウィング”です」(内藤、以下同)
ドライバー型が現在主流の最新スウィングなら、アイアン型はややクラシカルなタイプのスウィングといえるが、内藤はこう分析を進める。
「松山のドライバーの平均飛距離を見ると、ここ数年で飛躍的に伸びているんです。この数字を見ての推測ですが、おそらく彼はこれまでのクラシカルな“アイアン型”から、いま主流の“ドライバー型”スウィングへの移行を模索しているのではないでしょうか。それでドライバーとアイアンの調子がかみ合わず、それが現在の成績に表れているともいえます」
PGAツアーの試合は年々、コースがモンスター化し、キャメロン・チャンプに代表されるような飛ばし屋も続々と現れ、結果を残している。アイアン型からドライバー型へのシフトは、メジャー制覇を目標とする松山にとっては、ある意味“必然”といえるのかもしれない。
「インパクトでは顔がボールよりも右を向き、頭をボールの後ろに残したビハインド・ザ・ボール。そして上半身と下半身の捻転差を大きく、胸の正面でボールをとらえるのが、松山のスウィングの特徴であり、アイアン型スウィングの特徴でもあります。ただ、最新のドライバー型スウィングに比べ、首や腰、背中など、体への負担が大きく、10年後も同じスウィングをするのは厳しいのではというフィジカルの専門家もいます」(内藤)
そして、アイアン型からドライバー型への移行を果たした偉大な先達もいる。
「たとえば、ジャスティン・ローズやタイガー・ウッズも、数年前までは松山と同じ、アイアン型スウィングの代表といえる選手でしたが、30代後半からドライバー型のスウィングへと徐々に移行し、それが功を奏しています。松山はまだ27歳と若く、まだ数年はアイアン型スウィングでいけるはず。彼のアイアンの技術はメジャー優勝のためには絶対に必要なスキルであり、最大のストロングポイントでもあります。もし、私が松山からアドバイスを求められたとしたら、ローズやタイガーのように、ドライバー型への移行は30代後半でも間に合う。いまは自分のスウィングの完成度を高めることを、第一に考えたほうがいいのでは、と答えると思います」
メジャーの舞台で世界最高峰のアイアンが冴えを見せることを期待したい。