いざ全米女子オープンへ。専属トレーナーが語る、畑岡奈紗の躍進を支えるトレーニング

勝つためにトレーニングは必須

「畑岡奈紗選手やリディア・コー選手が主戦場とするアメリカ女子ツアーでは4日間大会の優勝スコアが20アンダーを超えることが少なくなく、昨年は31アンダーという記録も出たほど。つまり、勝つためにはより多くのバーディ、イーグルをとる必要があります。そのためにはティショットをなるべく遠くへ飛ばし、なるべくグリーンの近くから、短いクラブで2打目を打つ。この重要性は、ゴルフをされる方であればイメージしやすいと思います」（斎藤大介トレーナー、以下同）

年々平均飛距離が伸び、スコア争いが激化する米女子ツアーでは選手個人やコーチによる指導だけでなく、スウィングを適切に行うための体作りを担うスポーツトレーナーも必要になってきていると斎藤は言う。

もちろん、一口にトレーニングと言っても、たとえば重い重量を持ち上げる、筋肉を大きく強くする、といったような“筋トレ”だけがすべてではない。様々な目的に応じて適切なトレーニングがある。

「飛距離をアップするにはヘッドスピードを上げればいい。そのためには体の基本的な強さをつけるための基本的な種目から、それをスウィングにつなげるための体の使い方やキレを出すためのトレーニングなど、方法は多岐に渡ります」

鍛え上げた飛距離を、いつでも同じように飛ばすための「再現性」もトレーニングによって磨くことができる。

「ゴルフはパワースポーツであると同時に、誰にも邪魔をされない究極の再現性のスポーツです。再現性とは100回スウィングをしたら100回同じ動きができるような能力ですが、毎日微妙に変化する体の状態を把握して、その日の状態で思った通りに体を動かせるようにコントロールする能力もトッププロでは非常に重要です。とくにゴルフでは、ティショット以外は常に微妙な傾斜やバンカーなどがあるため、バランス能力を鍛えることが非常に重要になってきます」

時には自分の理想に近づくためにスウィング改造を行うこともある。そのための“土台作り”も大切だ。

「コーチと取り組んでいるスウィングや選手自らのスウィングについて改善したい点を話しあい、身体的には何が必要なのか（例えば、柔軟性や強さ）をトレーナーとして判断し、その為の体に仕上げていくのも大切な役割です。どんなに良いコーチがいて、良い理論があったとしても、それができるだけの体が伴っていなければ理想のスウィングはできませんから」

ドン底があって、今がある。畑岡奈紗が世界の舞台で突き抜けられた「ふたつの理由」 - みんなのゴルフダイジェスト

米女子ツアー「キアクラシック」で米女子ツアー3勝目を挙げた畑岡奈紗。この勝利で世界ランクは4位にまで浮上。世界ランク1位、メジャー制覇などが視野に入る「世界のトップ」へと成長を遂げた畑岡奈紗の強さの秘密を、本人と親交のある米国在住のプロゴルファー・レックス倉本に聞いた。

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過酷なツアーを戦い抜くための体作り

スウィングの強化だけがトレーニングの目的、というわけではない。米女子ツアーでトレーニングが必要とされているのは、その過酷な環境ゆえでもある。

「米女子ツアーは9割以上が4日間大会である為、日本女子ツアーのように月曜日に自宅に帰ってオフやトレーニングに充てることも不可能。その中で年間12カ国以上を転戦することになります。良いパフォーマンスを発揮するには、ラウンドの後半や4日間大会の週末など、疲れている時でもバテずに飛距離を維持し、高い再現性でスウィングできることが重要です。そのために『疲れにくく、回復しやすい体』を作ることも大事なんです。

同時に、『怪我の予防や改善』もトレーニングの大きな目的の一つです。ほぼ全員のプロゴルファーが何かしらの痛みや問題を抱えています。なのでそれを悪化させないように、動きの悪い部分や弱い部分、そして姿勢などを見て怪我のリスクを減らすための対策を行います。こうした体作りやケアは日本女子ツアー以上に重要になってきます」

海外の試合はもちろん、アメリカ国内での数時間の微妙な時差の違いも睡眠などに影響を及ぼし、パフォーマンスに表れる。国内でも相当な環境差があるので、毎週違う環境に適応しながらツアーを転戦する必要がある。

日本人選手にとっては、加えて言語の問題や食事の問題もある。肉体のみならず、日本人選手にとって超えるべきハードルがいくつもあるなかで戦い続け、結果を出してきたのが現在の畑岡奈紗や、かつての宮里藍らだったというわけだ。

国内ツアーでも、昨今はトレーニングへの意識がかつてないほど高まっている。プロアマ合わせて13名の日本人選手が出場する全米女子オープン、鍛え上げられた体で戦う彼女たちに注目だ。