全米プロ最終日、7打差リードでスタートしたブルックス・ケプカの1番ホール。ティショットで小さくない違和感を感じた。ストレートに近いボールがフォローの風に乗って、左のラフに落ちたのだ。
右ドッグレッグのこのホール、ケプカは3日間とも大きなフェードボールでショートカットを狙っていた。少し右に出して、右に曲がるプッシュフェード。3日間のラウンドで、ケプカはこのボールを軸にゲームを組み立てていた。そして、7打というアドバンテージを積み上げたのである。
完璧に見えた3日日までのプレーのなかでも、ドライバーが荒れたホールは何度となくあった。しかし、それはほぼすべて右へのミス。徹底してフェードを打ち、ミスするなら右という戦略を徹底していたのだ。右ドッグレッグでも左ドッグレッグであっても、ケプカはフェードを打ち続けていた。3日間で左にいったのは、わずかに一度だけだった。
同様に、フェードを駆使してコースを攻略していたのが、最終日にケプカを猛追したダスティン・ジョンソン(以下、DJ)だ。DJのフェードは、真ん中から少し左に出してから戻してくるフェード。ケプカもDJも、高弾道でランは少なく、フェアウェイをしっかりと捉えるのに適した弾道だ。
彼らは飛ばそうと思えば、さらに飛ばせるのだろうが、飛距離面では非効率になるバックスピン量多めの弾道を打ち、ティショットを安定させている。
と言ってもDJのドライビングディスタンスは、出場選手中、1位。ケプカも11位と卓越した飛距離を武器にしている。
フェアウェイキープを重視して飛距離を抑えて打っても、依然として飛距離のアドバンテージがあるのだから、彼らが強いのも必然に思える。3日目までの上位選手は、ほぼ全員が飛ばし屋選手だった。「ゴルフは飛距離じゃない」とは真理だが、ことメジャー大会に関しては、300ヤード前後をキャリーで打てる飛距離がないと、優勝争いのスタートラインすら立てない時代になりつつある。
ケプカの最終日の話に戻ろう。
スタートホールでややボールがつかまったケプカは、それ以降も、5番、6番と左のラフにつかまるなど、左へのミスに苦しむことになる。バックナインに入ってからは、11番でアゲンストの風に抗うようなドローを打って左ラフ、12番では持ち球のフェードを打ったものの右のラフと乱調。13番では、過去3日間では考えられない大きなフックボールでトラブルに見舞われた。
最終日のプレッシャーからショットが乱れたとも言えるだろうし、それまでフェード一辺倒に近かった攻め方が、風が強くなったことで、アゲンストに強いドロー弾道を打とうとしたことが、良くなかったのかもしれない。いずれにせよ、盤石と思われたケプカのゴルフが乱れたのは、ドライバーがつかまり始めたことがきっかけだった。その予兆は、1番ホールからあったのである。
ちなみにケプカの4日間の平均飛距離とフェアウェイキープ率は以下の通り。ボールがつかまった最終日は驚くほど飛んでいる。風、そして最終日のアドレナリンもさることながら、ドロー系のほうがやはり飛んでいるのが表れている。
初日 290.3ヤード/64.29%
2日目 311.4ヤード/71.43%
3日目 306.8ヤード/50%
最終日 344.5ヤード/42.86%
現代の大型ヘッドは、クイックにフェースが返りにくく、返そうとするとグワンと大きくヘッドが返ってしまう。重心位置が遠い位置にあるためだ。そのため、右のミスをある程度許容出来るなら、フェードのほうが相性はいい。現代のドライバーは、ボールが曲がりにくく、フェードであっても飛距離を稼ぐことが出来る。
それを実行しているのが、ケプカとDJというわけだ。ケプカはフォローで左脇を空けるようにスイングし、DJはインパクトで左手首が手のひら側に折れている。ともにフェースを返さないようにする動きで、フェードを打つには都合がいい。
これからは彼らのように、大型ヘッドを駆使して、飛んで安定したフェードを打つ身体能力に優れた選手がさらに現れるのではないだろうか。道具の進化はそれを後押しするだろう。
以上は、トッププロの異次元での話だが、アマチュアに参考になる点がないわけではない。ヘッドスピードが速く、力があってもドライバーが安定しない人なら、アマチュアであっても、大型ヘッドでフェードを打ったほうが、ティショットが安定するだろう。ケプカのように右のミスはある程度許容すると、心理的に楽になる。
逆に、もっと飛距離が欲しいなら、つかまりの良いヘッドで、ドローをベースに組み立てる方が飛びを期待できる。シニア向けドライバーがほとんど全てつかまりの良いクラブなのは偶然ではないのだ。出来れば、クイックにフェースターンする少し小ぶりなヘッドを選択したいところだが、残念なことに、現在はそうしたラインナップがほとんどない。
真っすぐ打とうとするよりも、どちらかに曲げたほうが簡単というのは、多くのプロが指摘することだ。思い切って持ち球を決めてしまったほうが、ティショットが安定する人は多いのではないだろうか。
※一部訂正致しました(2019.05.22 18:25)