練習日にキャディがつぶやいた冗談が現実に
先週末のチャールズ・シュワブチャレンジに優勝したのは、韓国生まれのアメリカ人、ケビン・ナ(35歳)。2位のトニー・フィナウと4打差をつけて優勝し、コロニアルCCの1番ティにあるチャンピオンズウォールにその名を刻んだ。
普段からよく上位争いをしているので、もっと勝っている印象があるが、実は今大会の勝利で、ツアー通算3勝目。また過去、コロニアルの試合に11試合出場し、10試合で予選通過、と非常に相性のいいコースとなっている。
さて、ケビン・ナといえば、松山英樹が2014年のメモリアルトーナメントで米ツアー初優勝した時に、プレーオフで戦い、打ち負かした相手。また、PGAツアー通なら、「スロープレーヤー」として有名であることもご存知だろうと思う。どちらかというとなんとなく、マイナスのイメージが強い選手だったかもしれないが、今回、そんな彼に美談が生まれた。
優勝すると約1億4300万円のビッグマネーと、シード権、来年のマスターズなどの出場権を得られるが、今大会は特別に1973年製ダッジ・チャレンジャーが副賞として送られることになっていた。
練習ラウンドの最中、キャディのケニー・ハームズは、18番グリーン付近に飾られていたこの副賞のブルーの車に一目惚れ。ケビンとも練習ラウンドの時から、この車の話をしていて、勝てば車をプレゼントすることを約束していたという。
ケニーは「ケビン・ナが今週勝ったら、この美しい車は僕のものだ」と自身のインスタグラムで発信していたのだが、実際ケニーの期待通り、ケビンが優勝し、見事この美しいブルーの車をゲットすることができた。
優勝のパットを沈めると、ケビンは車を指差しながらケニーに「あれは君の車だよ!」と伝えたが、まさか練習日に自分が冗談で言ったことが、本当に起こるとは思っていなかったかもしれない。
「彼に僕が車をあげるよう、彼がどう説得したか知らないが、こうして優勝して彼に車をプレゼントすることができて、これ以上嬉しいことはないね。彼にはその車を受け取る価値が十分あるよ!」
約束通り、ケビンは高級車をケニーにプレゼント。ケニーは「この車は本当に素晴らしい。僕の初めての車は73年製のカマロだったけど、この車は色あせたりすることのない、スーパーカーだ!」と大喜びした。11年前からキャディを務めてくれるケニーへの恩返し。「ボクたちは兄弟みたいなものだよ」と語る。
今年はマット・クーチャーが、キャディへの謝礼の支払いで、少額すぎるとクレームをつけられ、後日リクエスト通りの額を支払ったと言う残念な話題があったが、今回の話とは雲泥の差。
気前よく約束通りプレゼントしたケビンに対して、米国の記者たちはその話題に触れ、美談として書き綴った。スロープレーヤーと言われて批判を浴びることもあるが、基本的にはこのように気前のいい、機微のわかる男なのだ。
さて、これは余談だが、ケニーがケビンのキャディを務める前、米シニアツアーで長年に渡って賞金王に輝いていたヘール・アーウィンのバッグを担いでいた。私はその当時からケニーをよく知っているが、いつも彼とはハグして挨拶を交わし、バカな冗談などを言い合う仲である。
歯に衣着せないタイプというか、決してお世辞でも「きれいだね〜」などとは言わないが(苦笑)、おもしろい男だ。
ヘール・アーウィンは取材でコメント聞きをすると「ところでこれで、いくらもらえるんだい? 円でちょうだいよ」などと言って、私のことをからかっていたものだが、それをそばで見ていたケニーもヘールに似て、人のことをからかってくる。
ケビンも結構ジョーク好きなので、私が真剣に彼に質問しても二人から冗談で返してきたりと、なかなか話が前に進まない。そんな会話をツアーに行くと楽しませてくれるのがこの二人だ。