帝王が伝授した最後の30分の戦い方
今年のメモリアルトーナメントは、久しく優勝していない選手たちが上位で優勝争いを繰り広げたシーンを多く観ることができた大会でもあった。マーティン・カイマー(2014年全米オープン)、アダム・スコット(2016年WGCキャデラック選手権)、ケビン・ストリールマン(2014年トラベラーズ選手権)、松山英樹(2017年WGCブリヂストン招待)、そしてパトリック・カントレー(2017年シュライナーズホスピタルズ・フォー・チルドレン)である。
3日目を終えて、全米オープンチャンピオンのマーティン・カイマーが2位のアダム・スコットに2打差をつけ、3日連続で首位をキープしたまま最終日に臨んだが、久しぶりの優勝争いに痺れたのか、バック9では3ボギーで順位を落とした。
そして松山英樹と同組でプレーしていたパトリック・カントレーが、8バーディ、ノーボギーという絶好調のラウンドで、スコアに伸び悩むマーティン・カイマーやアダム・スコットをかわして、ツアー通算2勝目を挙げた。
「本当に嬉しい。前回優勝したときから、何度も優勝しそうなチャンスがあったけど、こんなに2勝目までに時間がかかるとは僕もビックリだよ。今日の優勝は、山を登り始めた、その一歩だと思っている」
カントレーは、今大会の開催コースであるミュアフィールドビレッジが大好きなのだという。コースに出ても、どんなショットを打てばいいのかがイメージしやすく、とてもゴルフしやすい。何といっても心地いいのだそうだ。それも、ホストであるジャック・ニクラスの助言が大きい。
カントレーはアマチュアだった2011年に、アメリカのジュニアゴルファー最高の賞である「ジャック・ニクラス賞」を受賞しており、現在フロリダの「べアーズクラブ」(ニクラスのコースで、多くのPGAツアー選手たちが住んでいる)に自宅を構えているなど、ニクラスとの縁は深い。
そんな彼も、ニクラスがホストを務めるメモリアルトーナメントに出場するようになったのは今から3年前のこと。2017年に初めて出場したときに、彼はニクラスの元を訪れ「このコースはどのようにプレーしたらいいのか?」と尋ねたそうだ。その時ニクラスは、じっくり腰を据えて1ホールづつ説明してくれたのだという。
「ここ2年間、いいプレーができているのは、(Mr.ニクラスがこのコースについて教えてくれた分)早くコースに慣れ親しむことができているからだ。今週の金曜日の朝のラウンドが終わった後、昼食を取っていたときにMr.ニクラスに食堂で会い、『最後の30分の戦い方』を教えてくれた。
そしてこう言ってくれたんだ。“コースに出たら楽しみなさい。周りを見回して、素晴らしい時間を過ごしている人たちを見るんだ。もちろんキミも素晴らしい時間を過ごすべきだし、自分がなぜそこにいるかについても気づくことだろう。リラックスして、楽しみ、そして試合で優勝しに行くんだ”と。そのことを今日のバック9では自分自身に言い聞かせ、そのおかげで少しリラックスできた。トップに立っても、とてもいいショットを打つことができていたし、スコアも伸ばすことができたんだよ」
カントレーは相性のいいコースに来れば、何かをつかめるかもしれない。そんなわずかな期待を持って、ミュアフィールドビレッジにやってきた。そして、ニクラスの助言もあり、自分自身のショットやパットの調子の良さも噛み合って、最終日に爆発的なスコアを叩き出して優勝することができたのだ。
「楽しまなければならない。決して苦しみながら試合を終えてはいけない」
またニクラスは、いつも真面目に、そして真剣にプレーするカントレーに、トーナメントで戦う際の楽しみ方をも教えた。
「彼はどこか私に似ている。真剣になったら自分のことばかりに集中し、周りのことは忘れてしまうんだ。私自身、何年か前に、試合の終盤に差し掛かったときに学んだことがあった。それは立ち止まり、周りを見回してみるということ。そして深い深呼吸をする。それによってリラックスできるんだ。自分も楽しまなければいけないし、この試合で優勝することも楽しまなければならない。決して苦しみながら試合を終えてはいけない」
これはカントレー自身も自覚していることなのだが、彼は表情に乏しく、いつもシリアスな表情を浮かべてゴルフをしている。そんな彼も、15番ホールでは少し笑顔を見せたそうで、ニクラスもその表情は観ていた。ニクラスのいう、「周囲を見て、楽しみなさい」の助言を少し実行できたのかもしれない。
ただ、カントレーは無理して表情を変えることはしたくないといい、ありのままの自分でいられるよう、心がけているという。無表情な面も自分の一部であり、だからこそ成功していることもあると考えている。
ニクラスも優勝会見で語っているが、彼はケプカのプレースタイルにも似ている。強く、決して後ずさりしない積極的なプレースタイルだ。カントレー自身も「メジャーのセッティングが好きだ。自分のゲームに合っている」と言い、自分のゲームとのメジャーやミュアフィールドなどの難コースとの相性の良さも語っている。だが、その「後ずさりしない」プレースタイルは、来週の全米オープン開催コース「ペブルビーチ」では少し控えた方がよさそうだ。ときには守りに入り、攻撃的に行き過ぎないことが、ペブルビーチ攻略のカギだとニクラスは語っている。
マスターズで9位タイ、全米プロ3位タイと、今年はメジャーでトップ10を外していないカントレー。自信をつけた彼が、ますます強くなり、ケプカの領域に入ってくる可能性も十分にある。