「ジャック・ニクラスの試合」として知られるメモリアルトーナメントを制したパトリック・カントレー。彼が最終日絶好調だった背景には、ジャック・ニクラス本人からの助言があったという。その内容とは? 海外ツアー取材歴20年のゴルフエディター・大泉英子が綴る、勝利の裏話。

帝王が伝授した最後の30分の戦い方

今年のメモリアルトーナメントは、久しく優勝していない選手たちが上位で優勝争いを繰り広げたシーンを多く観ることができた大会でもあった。マーティン・カイマー(2014年全米オープン)、アダム・スコット(2016年WGCキャデラック選手権)、ケビン・ストリールマン(2014年トラベラーズ選手権)、松山英樹(2017年WGCブリヂストン招待)、そしてパトリック・カントレー(2017年シュライナーズホスピタルズ・フォー・チルドレン)である。

3日目を終えて、全米オープンチャンピオンのマーティン・カイマーが2位のアダム・スコットに2打差をつけ、3日連続で首位をキープしたまま最終日に臨んだが、久しぶりの優勝争いに痺れたのか、バック9では3ボギーで順位を落とした。

そして松山英樹と同組でプレーしていたパトリック・カントレーが、8バーディ、ノーボギーという絶好調のラウンドで、スコアに伸び悩むマーティン・カイマーやアダム・スコットをかわして、ツアー通算2勝目を挙げた。

画像: ツアー2勝目を挙げたパトリック・カントレー(写真は2019年のWGCメキシコ選手権 撮影/姉崎正)

ツアー2勝目を挙げたパトリック・カントレー(写真は2019年のWGCメキシコ選手権 撮影/姉崎正)

「本当に嬉しい。前回優勝したときから、何度も優勝しそうなチャンスがあったけど、こんなに2勝目までに時間がかかるとは僕もビックリだよ。今日の優勝は、山を登り始めた、その一歩だと思っている」

カントレーは、今大会の開催コースであるミュアフィールドビレッジが大好きなのだという。コースに出ても、どんなショットを打てばいいのかがイメージしやすく、とてもゴルフしやすい。何といっても心地いいのだそうだ。それも、ホストであるジャック・ニクラスの助言が大きい。

カントレーはアマチュアだった2011年に、アメリカのジュニアゴルファー最高の賞である「ジャック・ニクラス賞」を受賞しており、現在フロリダの「べアーズクラブ」(ニクラスのコースで、多くのPGAツアー選手たちが住んでいる)に自宅を構えているなど、ニクラスとの縁は深い。

そんな彼も、ニクラスがホストを務めるメモリアルトーナメントに出場するようになったのは今から3年前のこと。2017年に初めて出場したときに、彼はニクラスの元を訪れ「このコースはどのようにプレーしたらいいのか?」と尋ねたそうだ。その時ニクラスは、じっくり腰を据えて1ホールづつ説明してくれたのだという。

「ここ2年間、いいプレーができているのは、(Mr.ニクラスがこのコースについて教えてくれた分)早くコースに慣れ親しむことができているからだ。今週の金曜日の朝のラウンドが終わった後、昼食を取っていたときにMr.ニクラスに食堂で会い、『最後の30分の戦い方』を教えてくれた。

そしてこう言ってくれたんだ。“コースに出たら楽しみなさい。周りを見回して、素晴らしい時間を過ごしている人たちを見るんだ。もちろんキミも素晴らしい時間を過ごすべきだし、自分がなぜそこにいるかについても気づくことだろう。リラックスして、楽しみ、そして試合で優勝しに行くんだ”と。そのことを今日のバック9では自分自身に言い聞かせ、そのおかげで少しリラックスできた。トップに立っても、とてもいいショットを打つことができていたし、スコアも伸ばすことができたんだよ」

画像: カントレーはニクラスの助言があったからこそスコアを伸ばすことができたという(写真は2018年のマスターズ 撮影/姉崎正)

カントレーはニクラスの助言があったからこそスコアを伸ばすことができたという(写真は2018年のマスターズ 撮影/姉崎正)

カントレーは相性のいいコースに来れば、何かをつかめるかもしれない。そんなわずかな期待を持って、ミュアフィールドビレッジにやってきた。そして、ニクラスの助言もあり、自分自身のショットやパットの調子の良さも噛み合って、最終日に爆発的なスコアを叩き出して優勝することができたのだ。

「楽しまなければならない。決して苦しみながら試合を終えてはいけない」

またニクラスは、いつも真面目に、そして真剣にプレーするカントレーに、トーナメントで戦う際の楽しみ方をも教えた。

「彼はどこか私に似ている。真剣になったら自分のことばかりに集中し、周りのことは忘れてしまうんだ。私自身、何年か前に、試合の終盤に差し掛かったときに学んだことがあった。それは立ち止まり、周りを見回してみるということ。そして深い深呼吸をする。それによってリラックスできるんだ。自分も楽しまなければいけないし、この試合で優勝することも楽しまなければならない。決して苦しみながら試合を終えてはいけない」

これはカントレー自身も自覚していることなのだが、彼は表情に乏しく、いつもシリアスな表情を浮かべてゴルフをしている。そんな彼も、15番ホールでは少し笑顔を見せたそうで、ニクラスもその表情は観ていた。ニクラスのいう、「周囲を見て、楽しみなさい」の助言を少し実行できたのかもしれない。

ただ、カントレーは無理して表情を変えることはしたくないといい、ありのままの自分でいられるよう、心がけているという。無表情な面も自分の一部であり、だからこそ成功していることもあると考えている。

ニクラスも優勝会見で語っているが、彼はケプカのプレースタイルにも似ている。強く、決して後ずさりしない積極的なプレースタイルだ。カントレー自身も「メジャーのセッティングが好きだ。自分のゲームに合っている」と言い、自分のゲームとのメジャーやミュアフィールドなどの難コースとの相性の良さも語っている。だが、その「後ずさりしない」プレースタイルは、来週の全米オープン開催コース「ペブルビーチ」では少し控えた方がよさそうだ。ときには守りに入り、攻撃的に行き過ぎないことが、ペブルビーチ攻略のカギだとニクラスは語っている。

マスターズで9位タイ、全米プロ3位タイと、今年はメジャーでトップ10を外していないカントレー。自信をつけた彼が、ますます強くなり、ケプカの領域に入ってくる可能性も十分にある。

 

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