プレッシャーに負けないパット術はフィル・ケニオンの十八番
ゲーリー・ウッドランドは、名コーチとして名高いブッチ・ハーモンと、こちらも多くのトップ選手を教えるその息子のクロード・ハーモン3世にスウィングを見てもらっていました。
ところが、今年のマスターズで、コーチを変えていました。スウィング面は欧州を代表するコーチ、ピート・コーウェン。パッティングは、これまた欧州を中心に評価の高いフィル・ケニオンに師事していました。
そのときは、「アメリカの選手なのに、欧州のコーチに習うのは意外だな」と思いましたが、全米オープンでの彼のプレーを見て、その選択が間違いでないことがよくわかりました。かつて「ちょっと雑だな」と感じたショートゲームが、ガラッと精度を高めていたからです。
コーウェンはスウィングのみならずショートゲームも見てくれるコーチですし、ケニオンはパッティングの専門家。とくに全米オープンでは、「外せば崩れる」予感のする難しいパットを沈める姿が印象的でしたが、ケニオンの教えは基本を忠実に守ることで、プレッシャー下でも安定したパフォーマンスを発揮できるというもの。
それまで最終日を首位で迎えた試合で勝ったことがなかったというウッドランドが、初メジャーのプレッシャーがかかるなか、淡々とやるべきことをこなすようにパットを沈め続けた姿からは、「正しいコーチを見つけたな」という印象を受けました。
また、ケニオンは、最終日最終組をともにプレーしたジャスティン・ローズのパッティングコーチでもあります。そして、コーウェンは最後マッチプレー状態で優勝を争ったブルックス・ケプカにショートゲームを教えています。
ローズのスウィングコーチはショーン・フォーリーで、ケプカのスウィングコーチはウッドランドの元コーチでもあるハーモン3世。世界最高峰のメジャーで三つ巴の戦いを繰り広げた3選手は、同じコーチに師事する仲でもありました。
そんなわけで、今年の全米オープンは世界のティーチング事情に興味があり、実際に彼らとも親交がある私からすると、個人的に非常に面白い展開でした(笑)。
最後に、ウッドランドのスウィングについて。まるでアプローチのようにコンパクトに振り、フェースを開閉せずにフェードボールを打つのが特徴のウッドランドですが、ザ・メモリアルトーナメントの練習場で、こんな練習をしていました。
それは、120ヤードを6番、7番くらいのアイアンを使い、ハーフスウィングで打つというもの。球筋は低いフェードです。タイガー・ウッズの横で練習していたのであくまで“ついで”に観察していたのですが、120ヤードをハーフスウィングのフェードで打つ、地味な練習をひたすら繰り返していたのは非常に印象的でした。
全米オープンのタイトルを獲得した背景には、世界最高峰のコーチたちを起用した分業制と、日頃からの地味で地道な練習、その両方があったようです。