「ジャンボMTNⅢ」「TN-87」などの“名器”と呼ばれる昭和のマッスルバックアイアンと、現代のマッスルバックアイアンには形状に明確な違いがある。その違いはなぜ生まれ、ゴルファーになにをもたらすのか? アイアンの進化を、ギアライター・高梨祥明が改めて考えた。

昔の国産プロモデルが発する、ジャパニーズアイアンの“クセ”

久しぶりにブリヂストンの「ジャンボMTN III」やミズノ「TN-87」など、昭和時代に一斉を風靡した国産プロモデルアイアンを構えてみたが、やはり昔っぽいアドレスルックをしているなぁと改めて感じた。バックフェースだけを見れば、今どきのマッスルと遜色ないように見えるが、構えた時の顔カタチには時代が大いに反映されていると思った。

最も大きな違いは、ヒール側の高さにある。昭和の名アイアンはヒールのポケット部が高く、現在のアイアンはここが総じて低い。ヒールが高いとネックとトップブレードのつながり部に包み込むようなカギ型の出っ張りが表れる。現代モデルにはこの出っ張りがないため、シュッと直線的にトップラインが立ち上がっていくのである。

画像: ヒールが高くネックとトップラインのつながりに“クセ”がある昭和のプロモデル(左)。現代プロモデルは、ヒールの低い米国シェイプ(右)が主流

ヒールが高くネックとトップラインのつながりに“クセ”がある昭和のプロモデル(左)。現代プロモデルは、ヒールの低い米国シェイプ(右)が主流

90年代まで、国内メーカーアイアンの基本は前者であり、米国メーカーアイアンのシェイプは後者だった。以前、キャロウェイのチーフデザイナーであるロジャー・クリーブランド氏がいっていたのだが、「日本人ゴルファーが好むアイアン形状は、ジャンボ尾崎や中島常幸がベン・ホーガンとスポルディングのアイアンの影響を強く受けて完成させたもの。一方、米国内で人気があるアイアンシェイプは、マグレガー(ニクラウス)の影響が強い」のだそうだ。

今は昔ほど両国のゴルファーの間で好みのアイアンシェイプがくっきり分かれているわけではないが、日本モデルを考える時は「ジャンボやトミーが作ってきた日本特有のスタンダードを意識しながらバランスを考える」のだそうだ。

脱グローバル化!? 米国式ウェッジで日本式アプローチをする難しさ

さて、ではなぜこうした日米アイアンのシェイプの違いが生まれてきたのか? それについてもう少し突っ込んで考えてみたい。ひとつ大きな要素として考えられるのが、日本と米国のトッププレーヤーが好むウェッジに大きな違いがあったことだ。80〜90年代の日本で好まれたのは、丸型大型の“グースネック”で、米国では雫(しずく)型でコンパクトな“ストレートネック”ウェッジが好まれた。

画像: 日本の名プレーヤーが編み出した丸型“グースネック”ウェッジ(左)と、米国スタイルのティアドロップ“ストレートネック”ウェッジ(右)

日本の名プレーヤーが編み出した丸型“グースネック”ウェッジ(左)と、米国スタイルのティアドロップ“ストレートネック”ウェッジ(右)

それでは、日本国内で育まれた“グースネック”と、米国生まれで今やグローバルスタンダードとなっている“ストレートネック”ウェッジを改めてご覧いただきたい。ホーゼルとトップラインのつながりが、先のミドルアイアンの新旧の違いと見事にリンクしていることがお分かりいただけるだろう。

今、日本のゴルファーもほとんどが「ボーケイデザイン」や「クリーブランド」などの米国式雫型“ストレートネック”ウェッジを愛用している。国内メーカーでさえ昭和っぽい国産プロモデルアイアンを作らないのは、現在の市場に丸型大型“グースネック”ウェッジに対するニーズがほとんどないからでもある。

80年代。日本のコース、グリーンを攻略するためにジャンボ尾崎が多用したのが、低く飛び出し2バウンド、3バウンドでスピンがギュギュっと入って止まる独特のアプローチスタイルだった。これがしやすいようにグースネックで出っ歯ではない、日本式のウェッジが生み出された。

一方、同時期の米ツアーではまさにロジャー・クリーブランド氏が旧知のツアープロのニーズを受けてオリジナルウェッジを開発していた。それがクリーブランド「TA588」だ。雫型で出っ歯になった“ストレートネック”ウェッジの原型である。こちらは深いラフからでもふわりと上がりやすく、高さで止めるアプローチに向いていた。日本と米国、プレー環境の違いが固有のプレースタイルを生み出し、専用の道具を育んだわけである。

今、日本と米国のゴルファーの間にアプローチスタイルの差はほとんどないわけだが、さて、それはなぜだろうかと思う。この30年の間に、我々は米国のコースと同じ環境でプレーするようになっているのだろうか? この日本でも、高さがなければ攻めきれない過酷なコースセッティングが増えているのだろうか? 越えるべきハザードもないのに、高く上げるアプローチで攻める必要はあるのだろうか。高く上がりやすい米国式ウェッジを手にして、ジャンボ尾崎のような低く出すアプローチをしようとしている日本のゴルファーは多いのではないだろうか。用途が合っていない道具で理想のアプローチを決めるのは至難の技である。

画像: 尾崎将司、3勝を挙げた1998年のアプローチ練習の一幕

尾崎将司、3勝を挙げた1998年のアプローチ練習の一幕

この30年で日本市場特有のウェッジはほとんどなくなってしまったが、もう一度、日本のコース特有の受けグリーンやコーライグリーンを攻めやすいアプローチスタイル、そして道具について考えてみてもいいような気がする。とくに我々アマチュアは、世界の舞台で戦うわけではない。通常営業の日本のゴルフ場でプレーしているのだ。ウェッジに限らず、すべての道具において日本人が使いやすい、環境に合ったゴルフ道具が作れるのではないかと、改めて思う。

画像: タメて飛ばせる「右ひじ」の使い方~原田修平プロ~ www.youtube.com

タメて飛ばせる「右ひじ」の使い方~原田修平プロ~

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