背中側から吹く風はプロにとってもっとも難しい横風
72位タイで大会を終えた稲森佑貴プロが試合後、強烈な横風に対応できなかったという趣旨のコメントをしていました。日本ツアーでフェアウェイキープ率1位の超ストレートボールヒッターが翻弄された北アイルランドの横風。その風に対する対応力がもっとも優れていたのが、今年のチャンピオンだったと思います。
風に対する対応力ということをもう少し具体的にいうと、それはスピンコントロールの素晴らしさということになります。各選手低い球で攻めていましたが、低くてもスピンがかかるとボールがめくれてしまい、風に持っていかれてしまいます。また、弾道が低く・強過ぎた結果、グリーンをオーバーしてしまうケースもみられましたが、ローリーはボールのスピンを操ることに成功していました。
さて、プロがゴルフをしていて一番難しく感じるのは、アゲンストではなく、ターゲットの左から右に吹く風。アドレス時の背中側から吹いてくる風です。この風は、弾道に影響するだけでなく、バックスウィングやフォローに対してアゲンスト風となり、前傾姿勢という不安定な体勢をとった体を後ろから押すことで、スウィングのバランスを崩しにきます。
この風が強く吹く中でボールをコントロールをするのは非常に難しいのですが、今回のローリーはそれが本当に上手かった。
「飛ばさない」技術が求められた
風に強いスウィングというと、コンパクトでビシッと振っていくスウィングを想像される方が多いのですが、ローリーのスウィングはリズムもゆったり目で、テークバックも大きめ。フェースローテーションも多めに入れるタイプのスウィング。実は、このようにゆったり振ってつねに一定のインパクトができるスウィングのほうが、風には強いんです。
コンパクトにビシッと振るタイプは、インパクトに強弱がつきやすく、想定よりも強くインパクトした場合にボールにスピンがかかり過ぎ、風の影響をモロに受けます。パッティングで下りの速いラインをOKに寄せるためには、短くビシッとストロークするより、テークバックを大きくとってゆったりストロークするほうが有利。これを「ラグパット」と言いますが、そのラグパット的スウィングをローリーはしていました。
ビシッと打たないのだから、当然のごとく飛びません。しかし、今回の全英オープンで求められたのは、まさにこの飛ばさない、飛び過ぎないショットでした。
ティショットではスピンを減らして、かつ飛び過ぎないように斜面に当てるショット。反対に、セカンドではラフからフライヤーをかけずに適度にスピンを入れるショット。グリーン手前のラウンドに当てて勢いを殺すといったショットマネジメントも含めた「飛ばさない技術」が、今大会では競われているように見えました。
そしてもうひとつの勝因は、スピンがかかり過ぎず、飛び過ぎない絶妙なスピンコントロールを、ローリーは非常に自然に行なっているように見えた点です。
どんなに強烈なアゲンストでも、風向きさえわかっていればプロは対応できます。しかし、背中側からの風は特別な技術が要る。それに対し、世界のトップ選手たちがあれこれ工夫した球筋を放つ中、一番「なにもしてない」ように見えたのがローリーでした。
みんながいつもと違うことを必死になってやろうとする中、一人普段通りのプレーをしている。それには、ローリーがアイルランド人という地の利もあったことでしょう。北アイルランド、ロイヤルポートラッシュをアイルランド人のローリーが制したのは、あるいは必然だったのかもしれません。