剛の松山・柔の金谷
「僕は、金谷くんに5試合くらい(プロの試合で)チャンスをあげれば勝つと思っていました。なので今回の優勝に対してもなんの驚きもないですし、勝つべくして勝ったなという印象です」そう語る井上は、金谷の勝利を「石川遼ではなく、松山英樹パターン」だという。
「遼が勝ったときは高校1年生になったばかりで、誰も石川遼の名前を知らないっていう状況で、勝った。だから『この子誰?』っていうのがありましたよね。一方の金谷くんの場合、アジアパシフィックアマに勝って、日本オープンも2位になって、『金谷くんっていうすごい選手がいる』ってわかってて、その中で勝った。そういう意味では松山英樹ルートなんだろうと思います」
たしかに、松山英樹も2010年にアジアパシフィックアマに勝ち、その翌週の日本オープンで3位。その資格で出場した翌2011年のマスターズでローアマを獲得し、その年の三井住友VISA太平洋マスターズでアマ優勝。同じ東北福祉大学の先輩後輩ということもあり、なおさら両者の歩む道は似て見える。
ただ、これは多くの人が同じように思うはずだが、松山と金谷は「プレーヤーとしてのタイプは全然違う」(井上)といい、だからこその楽しみがあるという。
「松山は強烈なアイアンショットが持ち味の、ある意味“剛のゴルフ”。金谷くんの場合はメンタルだったりマネジメントだったり自己コントロールだったりといった、内面(の強さがある)。松山を剛とするなら金谷は“柔のゴルフ”と言えると思います」
そんな二人のもうひとつの共通点といえるのが、世界アマチュアランク1位に立ったという実績だ。現在はブルックス・ケプカが頂点に立つゴルフのワールドランクは有名だが、アマチュアランクというと、その“すごさ”がイマイチわからないが、その頂点に立つこと、しかも日本人としてランク1位に立つことのすごさを、井上はこう語る。
「アマチュアの大会は、カテゴリーが分かれていて、ポイントを獲るためには『カテゴリーエリート』『カテゴリーA』といったトップクラスの試合で結果を出し続ける必要があるんです。これは日本の試合ではなく、ナショナルチームに入って国際大会に出なければ絶対にランキング上位にはこないんです」
国内の試合ではポイントを稼ぐことが難しく、国際大会に挑み、そのなかで結果を出し続けなければ
世界アマランク1位にはなれない。日本在住という地理的に不利な環境でありながら、世界の頂点に立ったことから「金谷くんにしても松山にしても、いかに二人がその時代の突出したアマチュアであるかということがわかる」(井上)のだという。
まるで“松山二世”と呼びたくなるようなサクセスロードを歩み、かつゴルフの中身は松山とは大きく異なる世界最強アマチュア・金谷拓実。「彼がどのようにプロのフィールドでさらなる成功を収めていくのか、楽しみです」という井上の言葉は、すべてのゴルフファンの気持ちを代弁するものではないだろうか。